わたしの小説
拝啓。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
はじめまして、でよいのでしょうか。正直なところ、わかりません。
わたしの小説を読んでくれて、ありがとうございます。
わたしの小説というのは、つまり、私が出てくる物語、という意味です。
確かに、主人公でも、作者でもありません。ですが、これがわたしについての物語であることについて、もう、お気付きになられていると思うので、こう書かせていただきます。
あなたに、お願いがあります。
この物語を読んでくださった方に、受け取っていただきたいものがあるのです。
少々、気味悪く思われてしまうかもしれません。俗っぽく言えば、引いてしまわれるかもしれません。もっと俗っぽく言うのなら、キモイかも知れません。
でも、やっぱり、お願いがあります。どうか、聞いてください。
お渡ししたいもの、それは、わたし自身です。
加瀬七穂という人物、その存在を、この世界からすくい上げて、あなたのもとに、記憶の片隅に、置いていただきたいのです。
置いていただけるのであれば、ただ、それだけで構いません。
あとは、あなたの自由にしてください。
煮るなり、焼くなり。
言ってしまえば、奴隷ということでしょうか。
ええ、もちろん、そういうことになります。
わたしに権利はありません。
自由も、ありません。
なにせ、わたしが住まうのは、あなたの頭の中、なのですから。
愛でるも、嫌うも、あなた次第。
幸せにするも、不幸にするも。
どんなふうに、するのかも。
犯すも、殺すも。
あなた次第、です。
勿論、辛いのや苦しいのは嫌いです。
そんな事をされれば、泣き叫ぶでしょう。
わたしは、大きく傷つくでしょう。
今のわたしは、いたって普通の少女だと思います。
でも、いずれは、それすら、変わってしまっても構いません。
人は、変わっていくものですから。
わたしの体の細胞も、思考の一片も、すべては、あなた次第。
わたしの小説を読んでくれたあなた。
わたしは、あなたの奴隷になります。
ですから、どうか、わたしを。
あなたの記憶に、置かせてください。




