表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/126

屋上

ふと時計に目をやり、慌てて家を飛び出し、5分も走ったところで。

普段なら多少の遅刻など気にも止めないことを思い出す。

一体何をそんなに慌ててるんだ俺は。

と立ち止まり、通学路を眺める。

世の中の風景というのは、こんなにも簡単に変わってしまうものなのだろうか。

季節が流れた訳ではない。というか、客観的に見れば多分何も変わっていない。


だが、一昨日よりも以前、加瀬との一件以前とは、まるで何もかも変わってしまった気がする。


ギリギリアウトで教室にたどり着いた俺は、遅刻を嗜める教師と目を合わせる事もなく、何よりも真っ先に、彼女の姿を探した。


が、見当たらない。彼女の座席は、大人しく机に収まったままだ。

どうやら、加瀬は欠席したらしい。

まあ、別に珍しい事ではない。そもそもサボりまくっている俺に指摘されたくはないだろうが、彼女は時々、学校を休んでいた。


理由はわからない。

昨日の出来事のせいで俺と顔を合わせるのが恥ずかしくなったとか?

いやいやまさか俺じゃあるまいし。


昼休みに入った瞬間、そそくさと教室を後にし、俺は早足で階段を登った。


思ったとおり……には行かないものだ。

階段を昇りきったあたり、屋上へ続くの扉の前に、人影はなかった。


が、何かがいつもと違っている。

そんな気がして、俺は扉に近付き。

ドアノブに、ゆっくり力を込めた。

扉はあっさりと開いてくれた。


屋上のど真ん中には、バカでかいエアコン用の室外設備があった。

なんというか台無しだ。夢が壊れた。学校屋上と言えばもっと広くて、何もなく、走り回れる感じであってほしいのだが。などと考えながら、天を向いた扇風機の化け物の裏手へ回り込む。


見つけた。


いつか見た、あの。

水底から覗き混むような、打ち捨てられた絵画のような。


暗く、冷たい笑顔が、そこにはあった。


「よう。手紙読んだぜ」


振り返る顔から、笑みが消える。


「お前がどんなにあの世界とやらを大事にしてるか、良く分かったよ」


普段の笑みを取り繕う加瀬。


「だから、契約書、持ってきた」


彼女の眼前に、乱暴に付き出した書類。

その一枚一枚すべてに、二つの印が並んでいた。


「ほら、これで契約成立だ。今日から俺の奴隷な!」


可能な限り、軽ぅ〰️い口調でそう告げる。

反応を待つ。

加瀬は一瞬無表情になり、次いで笑う。

苦笑する。

本気にしてないなこりゃ。

俺の意図など、お見通し、バレバレか。


「なんて言うわけねえだろ」


そうして、俺は格好良く書類を破り捨て……る予定だったのだがいくら力を込めても一枚も裂けず逆に俺の方が手首を痛める結果になった。

駄々をこねる子供のように、紙の束を床に叩きつける。


見ると、加瀬は両手で口を押さえ、半泣きに……

なるほど笑っていた。


「なんだよ、あの手紙。理由なんて書いてねえじゃん」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ