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ZEIT

時間が流れる。

でかくて丸いバスタブに湯を張る間、取り合えず点けたテレビを眺める。

ドキュメンタリー番組が流れていた。

核の脅威とか、世界が滅びる、とかなんとか。


「そろそろ、でしょうか」


七穂は立ち上がって、バスルームの扉を開ける。

湯気が立ち上っている。


「お先にいただいても、よろしいですか」


「ああ、あああ、うん」


キョドるな、少年よ。

少年よ大したことないな、お前。

クラクラするあまりクラーク先生の言葉が頭に浮かぶ。


「では、失礼して」


七穂はワンピースに手をかける。

脱衣所と呼べそうな空間はあるが、その周りに仕切りや壁はない。

部屋のどこからも隠されてはいない。

目を逸らさないと。

そう思いながら、なかなか実行に移せないでいると、一瞬で。

下着姿になった。

グリーンの、フリルのついた、ブラとショーツ。

そして、こっちを向く。


「ご覧になる、おつもりですか、わたしの」


「いや! 違うんだ、つい」


七穂は少しだけ、笑う。

どこか大人びた、妖しい微笑み。


「かまいませんよ、あなただったら」


そう言って、ブラのホックに手をかける。

彼女の足元に、音もなく落ちる。

綺麗な背中だった。

目を離せない。

そして、七穂はショーツに手を伸ばし。

手を止める。

両手で胸を押さえながら、振り向く。


「本当に! 本当に見ているおつもりなんですか!」


顔が赤くなっている。

さっきまでのアダルトな気配は何処へやら。


「しょうがないだろ! 俺だって男なんだよ!」


「目を閉じてください!」


「風呂に入って脱げばいいだろ!」


それに気が付くと、一目散にバスルームへと姿を消す七穂。

……おいおい、これじゃ期待したような出来事は起こりそうもないぞ。

と、そう思いながらも、俺は安心している。


そうして、シャワーの音とテレビのホワイトノイズだけが、時間の流れを教える。

世界が滅びるとか、なんとか。


家にある奴の何倍も広いベッドの上、俺は大の字になって体を休める。

気持いい、死ぬほど気持ちがいい。

このまま世界が滅びたっていい。


そして、今日の出来事を思い出す。

七穂が、好きだと言ってくれた。

本当なら、それだけで今日という日は薔薇色だったはずだ。


夜のショッピングモールで、警備員に追い出されるまであちこち見て回った。

心から笑いながら、くだらない話をした。

あの経験はきっと、何年たっても、忘れられない、思い出になる。


そして、彼女は話してくれた。

少しだけ、だけど、彼女の家族と、その秘密について。

本当なら、ただのクラスメイトのままだったら、赤の他人のままだったら。

きっと俺は、一生、知らないままだった。


恐ろしく寝心地の良いベッドの上。

大きなバスタブで足を伸ばし、体を温めているであろう七穂を思いながら。

俺は目を閉じる。

こんな日が、いつまでも、続けばいいのに。

ずっとずっと、永遠に。


戦争の音がする。

ああ、世界が滅びたってかまわないさ。

今なら、そう思える。


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