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KOST

ドリンクバーコーナーから取ってきた三杯目のコーヒーを啜っても、眠気は取れない。

自宅に帰る、と、七穂に嘘までついて、実際には深夜のファミレスで睡魔と戦い続ける俺だった。

喫煙席に何やら楽し気に喋るガラの悪い集団がいる。

タバコの煙がこっちまで漂ってくる。

緑色のカバーがかけれられた二人掛けの長椅子に、もたれかかりすぎて、そのまま横になってしまいそうだ。天井のシーリングファンの絶妙な回転速度が、視界の片隅から、これまた眠気を誘う。


いらっしゃまいせ


何名様でしょうか


店員の声が聞こえる。約1時間ぶりに、新たな客が入ってきたようだ。

店の入り口の方を見ると。

茶髪の少女は俺を見つけ、目をそらしながら近づいてくる。


「おまたせ、ごめんね」


「眠っちまいそうだった」


約束の時間を軽く2時間ほどオーバーしている。

そんな状況で彼女を待ってる俺も俺だが。


「あたしも、ちょっと寝てた」


マジかよ。

人を待たせておきながら寝入るとは恐れ入る。

しかし、カミウラノノカとはそういう人物なのだ。


「それで、用って?」


おい。

ちょっと待て。

俺の視線は彼女の恰好にくぎ付けになる。


「おいノノ、いくらなんでも寒いだろ、まだ」


というか、寝ぼけすぎだろ。

彼女はピンクの下着姿だった。


「こ、これは」


頬を赤らめ、身をよじる。

恥ずかしがるタイミングがおかしいぞ。

さっき堂々と店員の前をモデル歩きっぽく闊歩していなかったか。


「ご主人様が、この格好で来いって!」


はあ?

初耳だ。ノノにもご主人様が居たのか。

一体どこの誰だろう。


「誰だよ、お前みたいな暴力女を囲うモノ好きは」


「はあ? アンタでしょ! アンタが命令したのよ!」


そっか、そうだそうだ。

ノノも俺のハーレムにジョインしたんだった。

まあ、入れてやってもいいだろう。


「それで、アタシはどうすればいいわけ?」


ノノは、下着姿……というか、下着が覆っている部分以外のすべてを外気に晒したまま、腰に手を当て、突っ立っている。とりあえず座ろうよ。


「早く命令しなさいよ、ご主人……さま! オラァ!」


俺の顔に蹴りが入る。そして俺は決意する。

やっぱり、こんな粗暴な奴はクビだ。

俺のハーレムは3人でいい。璃子さんと、あの双子の姉妹さえいれば……


はっ!


目を開くと、茶髪の少女がいた。

前かがみになって、俺の頬をつねっている。

下着姿ではない。黒いTシャツとデニムのショートパンツを身に着けている。

肩から小さなショルダーバッグを下げている。

いやまあ、どうせこんなオチだろうとは思っていたけど。


「ノノ、やっときたか」


思わず口をついた、その呼び名に、自ら焦りを覚えた。

カミウラは顔を引きつらせ、後ずさりしている。


「アンタ、だいじょうぶ?」


「すまん、寝ぼけてたみたいだ、カミウラ」


はあ、とため息をついた後、俺の向かいに腰かける。

そして、投げ出された腕と共に、テーブルの上に、意外なセリフが飛び出した。


「ノノカでいいよ、ユージ」


「へ?」


「アンタに、協力することにした」


協力。

俺がカミウラを呼び出したのは、まさに、それを求めて、だった。


結局、俺は疑問を捨てきれなかった。

あの、七穂が書いた物語が、頭から離れてくれない。

忘れようとするたび、記憶の中からよみがえり、数多の疑問を、俺に投げかけた。


こう思うのだ。

あの世界で俺が経験した出来事は、ひょっとしたら、単なる作り話じゃあ、ないんじゃないか。


「じゃあ、ノノカ、教えてくれ」


俺はスマホを取り出す。

彼女のメアドだけが、そこに入っている。

彼女に襲撃されたあの日、七穂を探すため駐車場を去ろうとした俺に、何かあったらここに、と教えてくれたのだ。電話番号や名前など、その他の情報は一切存在しない。


「お前の名前、どう書くんだ?」


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