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満HIGH天

『神さまのことば』


それがタイトルなのだという。


その本によって、この世界は救われたのだという。

ナナは、たったそれだけを、俺に教えてくれた。


……世界を救う?

バカバカしい、なんだよ、それは。


俺は空を見上げた。


月が眩しく輝いている。

右手でそいつを覆い隠すと、今度は。

両手でも覆い隠せない程の、数多の光。

濃紺の天球を彩る、星々。


静かにそよぐ、しかし、時折地鳴りのように恐ろしいものにも感じる、波の音。

プールの一件のあと、俺はずっと、この場所にいた。

日が暮れ、夜のとばりがおりてからも、ずっと考え続けていた。

この違和感の正体はなんだ。

まるで、自分が自分じゃないみたいだ。

俺の中に、別の誰かの記憶を、人生を、無理矢理押し込められて、滅茶苦茶にかき混ぜられたような。

どうしようもない、不快な焦燥。


「この島が、一番、あの世界に近いんです」


彼女もまた、空を見上げていた。

静かに微笑みながら、永い沈黙を破る。


「けれど、時間切れでした」


あの世界。

それもまた、聞き覚えのある言葉だった。


「あなたを、連れていってあげたかった」


シホは、微笑みながら、声を震わせていた。

いや。

シホなのか。

あの三つ編みは、どこへ消えたのだろう。


「わたしを救いたいと、そう言ってくれた、あなたを」


彼女はナナだろうか。

カチューシャは、見当たらない。


「救ってあげたかった」


どちらだろう。

わからない。

目に見えるものは、あてにならない。

それこそ、何一つ。


「もう、別荘に戻りますね、ノノと璃子さんがお待ちですから」


誰だ、彼女は。

俺は知っている。

知っている、はずだ。


「元気でね、有慈くん」


背を向けて、ゆっくりと、歩を進める。

一歩、二歩、三歩。


誰だ、彼女は。

俺は、口を開いた。


「読ませてくれよ」


振り返る顔。

泣き虫だな、相変わらず。


「あの世界の事、読ませてくれ」


知っている。

俺は、彼女を知っている。

思い出せる。


「それは、無理なんです」


「それじゃあ、教えてくれ」


今すぐ駆け寄りたい。

駆け寄って、また、彼女の頬を濡らすそれを、拭い去ってやりたい。


「教えてくれ、七穂!」


俺は駆け出す。

何よりも早く、走る。

走りたかった。

けれど。


「俺は誰なんだ、これは、誰の人生なんだ」


体は、前に進まない。

一ミリたりとも。

彼女との距離は縮まらない。


無限のように思える疑問と違和感の中に、ただ一つ、確かな事実があった。


神さま。


彼女は。あの子は。あの微笑みは。

天の星々よりも。



「さようなら」



遠い存在だというのか。



「しあわせになってね」

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