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登校と恫喝

同じ車両の同じドアから出てきて、同じ改札を抜け、二人並んで通学路を行けば、その一部始終があらゆる生徒の目に留まり、最早言い訳は通用しない。

今朝、七穂の祖父に弁解として使ったあの『設定』は、もともとは学校の連中を納得させるために作り出したものだ。

俺達はもともと付き合っている恋人同士で、若さゆえのタガが外れた過ちだったのだと。

あの、七穂との契約の瞬間。

校庭のど真ん中で咆哮した俺の言葉は、そういう設定に基づいて説明してある。


「加瀬ちゃん、おはよう! あとついでに辰巳君も」


知らない人に声を掛けられた。

七穂の友達だろうか。セリフの後半部分のトーンの下がり方が尋常ではない気がしたが……。


「ねえ、本当に大丈夫? ひどい事とかされてない?」


「脅されてるんじゃないの? なんでも相談に乗るよ?」


酷い言われようだった。

まるで通りがかる女子という女子、いや男子も含め生徒という生徒から『加瀬七穂ちゃんから離れないとオマエを社会的に抹殺する』と遠回しに脅されているようだ。

そうだ! 脅してるのはお前等で、脅されてるのは俺の方だろうが!


「有慈くんは、とても素敵なひとだよ?」


首に巻かれたチョーカーの端を指でつまみ、不思議な、含みのある笑みでそう語る七穂だった。彼女の弁護は、冗談めかして、どこか秘密めいていて、イマイチ説得力を持たないのだ。

素敵なひと、と言われた瞬間の俺のメモリアルなときめきは、まあ事実だとしても。

しかし、昇降口の靴箱の扉を開けた瞬間、俺は本物の悪意を見つけた。


『殺してやる』


憎悪に満ちた、何重にも太く塗りつぶされた線で、その言葉だけが、ノートの切れ端に記されていた。

俺はそれを隣の靴箱に移し替え、人違いだろう、と己に言い聞かせ、忘れることにした。



  ◆◇◆



忘れるなんてできねえよ!

放課後、俺は昇降口を見張った。

外を眺めると、あの日、屋上の入り口に差し込んでいたそれと同じ、茜色。七穂との、契約のきっかけ。明日も、明後日も、日が暮れるたび、思い出すのだろうか。

1週間も経っていないはずだが、もう何か月も前の出来事のように思えた。

ここ数日で、その前の一年よりも長い時間が流れていったようにすら思えた。

不意に、肩を叩かれた。

振り返ると、そこには背の低い、茶髪の女子生徒が居た。

知らない顔だな。七穂には及ばないが、そこそこ可愛い。


「これ、アンタにあげる」


突き出されたものは、封筒だった。

そいつが俺の手に渡ったのを確認するや、彼女は早足でその場を後にする。


まさか。

これはアレか、モテ期到来という奴なのか!

彼氏彼女が居る人間の方が好かれやすい、という例の法則が適用されたのか。

いや、でも、ごめんよ、俺には七穂という人が……


いやいや、待て、七穂の件で懲りているだろう。

お前この間、愛の告白と勘違いした挙句全力疾走で逃げ出してたじゃねえか。

早合点、勘違いは身を亡ぼすぜ、と己に言い聞かせ、封を切ると。

案の定、そこには。

何重にも塗りつぶされた、太く黒い線で。

こう書かれていた。


『絶対に殺してやる』


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