表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/126

食卓と黙々

近所のスーパーから戻り、改めて玄関を潜ると、最初の部屋にキッチンがあった。そのすぐ横に丸い大きなテーブル。濃い焦げ茶色の木製で、同じ色をした椅子が3つ、並んでいる。リビングというかダイニングというか、そんな感じの部屋だろうか。


オレンジの灯りが周囲を照らす中、俺は空腹と戦いながらさっさと調理を済ませる。焼き飯系に片寄った少ないレパートリーの中から、最も失敗する確率の低い奴を。


「できたぞ」


何の変哲も創意工夫もない、ただのチャーハンである。


「あ、こっちも、なんとか終わりました」


そして加瀬には味噌汁を作ってもらった。が。

なんとか、という物言いが気になるぞ。そんな、頑張る必要のあるものなのか……?


「これで、いいのでしょうか?」


お玉から小皿に写し啜ると、湯冷ましの風味が口一杯に広がる。こりゃあ心暖まる優しい温度だ。

ダシが入ってねえ!


「ああ、うん、美味いよ、仕上げは俺がやっとくから」


味にはうるさい、といつだか本人は言っていたが、自分で飯を拵えた経験はほとんど無さそうだ。

なんとなくそんな印象があったが、加瀬は、いわゆるお嬢様育ちなのだろうか。

この家からは、そんな印象はまったく受けはしないが……。


テーブルに並ぶ食器から湯気が立ち昇る。

俺たちは椅子を引き、いただきます、と声を揃える。


チャーハンの一口目を咀嚼する。うん、70点だな。

加瀬の反応を伺う。

がっついていた。

口いっぱいに頬張り、頬に米粒をくっつけて、ひたすらスプーンを往復させる彼女は、やはりどこか小動物のようだ。俺も負けじと空腹を満たすのに専念し、無言で食事は進み、あっという間に終わった。


「平らげちまったな」


返事が返ってこないので傍を見ると、加瀬は椅子の上で体育座りをしていた。顔をうずくめていて、表情が読めない。


「あまりに美味すぎて感動してる?」


意外や、こくこくと首を動かし頷いた。


「ええ……それは、もう」


少しだけ顔を上げ、赤くなった両目を俺の方に向ける加瀬。


「奴隷というのも、存外、悪くはありませんね」


震えながら、何度も俺に向け感謝を告げる。

いたたまれなくなる、という奴なのか。

俺はその場を離れたくなり、立ち上がった。


「こんなので良かったら、また作るよ。今日はもう帰るわ」


ごく近い場所に位置する玄関の引き戸に手をかけ、開け放ったところで。

加瀬は立ち上がって、こう言った。


「ダメです。帰らないで、ください」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ