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美しき蝶 ⑤
「桜雅、ごめんな。」
「いーえ、しょうがないでしょ。そういう血筋なんだから。」
そういう血筋。分かってる。一禾も二巳もそういうのは俺よりも理解してると思う。なんせ、自分のことだから。
「二巳は大丈夫か?」
「俺は平気。そういう血筋じゃないから。」
ボソッ、と言った最後の言葉。確かに俺の耳はしっかりと受け取ったんだ、その言葉を。
“ そういう血筋じゃない ” とはどういう意味なのか。俺の頭はまだ理解できてないみたいだ。
「あ、桜雅。一禾が目を覚ました。」
「え?」
あっという間に一禾が目を覚ましていた。薄く目を開いて、少し霞みがかった景色を見つめていた。
「一禾。」
「ごめんな、桜雅、二巳。まただったよな。」
また。幼い時からずっとこの感じで。真夜中に呼び出されることなんて、もう慣れ。
「じゃあ、俺帰るわ。一禾も目覚ましたし。」
「また明日。」
迎えに来る、そう一言言って、嵯峨家の玄関を出る。黒い蝶と入れ替えで。