美しき蝶 ④
「二巳。」
「何。一禾から話しかけてくるとか、珍しい。」
謎が謎を呼んでるから、少しでも聞いておくべき。意外と勘が冴えてる二巳に、案をもらうべきだから。
…こういう時に、使えるものは使わないと。
「きっとそれはさ、俺らだけじゃなくて、碧と灯が何とかしてくれるって。」
俺らの気持ちを汲み取ったのか、風が吹いた。どこか温かく、どこか冷たく、そんな風。
着物の裾をすっと通り抜けて、足元を冷やしていく。
「風、冷たくなってきたし、中入ろうか。」
満月の夜。こういう時ほど何かある。それは俺が一番知っている。
満月は、そういう力を活動させやすい。いわゆる、制御できなくなる。それくらい強力になってしまう。
早く眠ってしまえば…、きっと。
「一禾?」
「二巳…、桜雅に…、」
心臓の鼓動が早くなるのを感じた。一足遅かった、なんて考える時間もないくらい、どんどん早まる。
「一禾、桜雅早く来るって。」
冷静に落ち着いて的確に。そんな二巳を横目に、早まる鼓動とリンクして荒くなっていく呼吸。
満月の日はいつもそう。何かある、というのはこういうことで、無事に眠れた日などない。
「あ、桜雅。」
「はい、お待たせ。大丈夫、一禾。」
その言葉と同時に耳元で聞こえた、パチンという音。その音を最後に、俺の記憶は途切れた。