美しき蝶 ③
嵯峨家での花を愛でる会を終わらせて、帰路に着いた頃。今までとは違う空の色と、違う空気。
全てのことが頭に流れ始めた頃、反対方向を歩く一人の少女を見つめる。
「確か、山田楓ちゃん。」
そう呟くと、耳元で聞こえるあの声。
『お前の仕事はなんだ、魅。』
「あはは、そんなに怒るなって、翼。」
『その名で呼ばないでくれ。』
今まで通りの関係。今まで通り。全てがうまくいってるようにも思えた。この時までは。
「桜雅先輩!」
「あれ、凛ちゃん。」
「あの…」
翼の元彼女。今までとは違う系統の女の子。
翼の好みとはかけ離れてると思う。
こんなところで会うとは思わなかったなぁ。着物だし。
「どうしたの?」
「翼先輩のこと、何かわかりましたか…?」
「…んー、全然情報がなくて。」
「そう…、なんですね。」
少し困った顔で眉を下げれば、女の子なんてすぐ信じる。
実際嘘はつけないけど、人を騙すことはできる。だから、これは嘘じゃない。騙しだ。
「凛ちゃんも、そろそろ翼のことは忘れなよ。」
「嫌です…。だって、あんなに好きになった人…!」
その言葉を聞き終わる前に、抱きしめていた。
「翼じゃなくて、俺にしなよ。」
そう伝えて、しばらくそのままでいると、向こうも心を許して、腕を背中に回してくる。
…あーあ。女って、簡単。