美しき蝶 ②
翼が桜雅を呼び出すなんて。何がどうやったら呼び出すことができるのか。
あいつはもう、“ 死んでる ” 。
「一禾。」
「翼は…」
「桜雅は嘘をつかない。俺は知ってるから。」
あいつは嘘がつけない。それは、俺も知っている事実。
あいつが嘘をつけるようになったら、俺も騙されるだろう。
….ってなったら今回は?
「今回ははずれですね。本当に呼ばれてるんだから。」
「…桜雅。」
「盗み聞きはダメでしょ、桜雅。」
影を隠し、心を読み、静かに侵入する心の隙間。誰も入れないような、狭い隙間に入り込む。
こいつには何も隠せないし、嘘なんてつけない。
「翼からというよりかは、ね…?」
「うん。」
みんな分かっているのに、言葉に出せない。というより、出さない。
それは、言っちゃいけない言葉だから。
そんな中、ふわっと香るはちみつの香り。
「…来る。」
「うん。」
ふわっと風が吹いたのと同時に、現れたスーツの男。肩に黒い羽をくっつけて、背中にあった黒い翼をしまった。
どこか、辺りも暗くなっていて、あったと違う雰囲気を漂わせている。
「…お疲れ様です。」
『真紅と冷炭からの伝言だ。3人まとめてあいつの会議に来い。』
それだけ言って、また黒い翼で羽ばたいたかと思えば、体を縮めて、からすと化する。
香りは甘いのに、塩みたい。砂糖みたく、何もかも甘くはうまくいかない。
“ あいつの会議 ” 。彼は間違いなくそう言った。
「来たじゃん。これほどめんどくさいものはないけど。」
めんどくさい、ね。難しいものほど、何もしたくないの。それはきっと、みんな一緒なはずで。
「もちろん、行くでしょ? 一禾。」
「呼ばれたら行くしかないでしょ。」
こんなにも心臓が破裂しそうなほど痛くなる、なんて今までで初めて。
だから、こんなに痛いのか______。