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Ghost Ability  作者: 紫乃
Season 3
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美しき蝶 ①


幼き日々の記憶が、頭によぎってくる。

もう忘れたはずの記憶。

ずっとその記憶に浸っていると、ある声が現実に引き戻す。



「一禾。」


「え…?」


「どうした。さっきからボーッとしてる。」



その声の主は一個下の弟だった。あまり変わらない年と、あまり違いのない見た目。感性までほぼ同じといっても過言ではない。



「黒沢華のことでも考えてた?」


「考えるわけないだろ。」


「公私混同してると、親父に怒られるよ。」



怒られるのは嫌、なんて子供みたいなことを言ってみる。

でも、大学生にもなって、と言うのはこいつ。



「一禾、そろそろ。」



今日はお客さんがたくさん来る日。うちは華道の名家だから、たくさん来るんだ、ひとが。


綺麗な着物を着て、美しく、可憐な香りを漂わせて。

もちろん、自分も美しく、綺麗な着物を着る。

邪悪な、レモングラスの香りを漂わせて。



「二巳、その香り…」


「そう、百合の香り。こう言う時ほど使わなきゃ。」



何かを含む言い方。華道の家の人は、ほとんどが柑橘の匂いをつけるのにも関わらず。

でも、そこが二巳のいいところで。



「お待たせしました。」


「遅かったじゃない。何してたの?」


「着物の着付けに手こずってしまって。」



表は愛想よく、それが僕の中で決めてることで。これが崩れた時は、全てが終わる時。


綺麗な美しい花が並ぶ中、次々と挨拶を交わして、色とりどりの花を見つめる。



「一禾、二巳。」


「…なんだ、来てたのか。」


「あーれー? 俺には挨拶来てないよ?」


「…いつもお世話になってます、嵯峨一禾です。」


「二巳でーす。」


「こちらの可憐な美しい花を見て、心を清らかにしていってください。」



ニヤニヤしながら、見て来る桜雅は、茶道の名家である西園寺家の跡取り。昔から何かやるたびにかけつけて、あり得ないほどの腐れ縁だ。



「桜雅さ、いつお茶会やんの?」


「あー、あるけど俺出ないよ? 翼に呼び出されてるから。」



“ 翼に呼び出されてるから。 ”


その言葉だけがやけに大きく聞こえた。まさか、と思いながら二巳も目を大きく見開いていて。



「あれ、嵯峨兄弟も呼ばれてるのかと思ってた。」


「でも翼は…」


「わかってるじゃん。あいつは______。」



何も聞こえない。そう思えたらよかったのに。

その横を静かに蝶が羽ばたいていた。







「翡翠様。」


「どうされた。」



黒沢華がどうかした、何かをやらかした。そんなものは聞きたくないんだ。

今は目の前にいるこいつを。



『…私がっ、何をした…っ、』


「覚えてるくせに。」



絶対に教えるものか。お前が思い出すまでは。



「黒沢華のもとに誰か、派遣しますか。」


『…っ! やめろ!華には手を出すな!』


「黙れ!決めるのは僕だ!」



ガタッ、とイスが音を立てる。それと同時に絶望の顔。

そうだ、もうお前は何も出来ないんだ。



「黒沢華のもとには、真紅と橙が行く。」


『やめろ!』


「黒木ひなた。存分に遊ぼうじゃないか。」



その顔が、たまらなく好きだ。もっと見せてくれ。今まで見たことのない、その顔を。


完璧な黒木ひなたでも、ひーちゃんでも弱みがあるんだね。

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