黒いミント ⑦
目を覚ました。見覚えのない暗い部屋。私はここで手足をイスにくくりつけられている。
いつもだったら抜け出すことは簡単。でも、動かない。
白い壁に囲まれたこの部屋で、私は息をすることもままならない。
「目、覚ました?」
『お前は…』
「どうしたの?そんなにびっくりした顔して。」
ずっと、どこかでひっかかっていた何か。こいつが、目の前にいる一人の男が、何かを知っている。
でも、私の中では何も思い出せないんだ。
「ねえ、僕が誰だか分かる?」
ずっと流されているビデオ。その中で動き回る男の子。耳元で話されている声と、息遣い。
一致するようでしない。
「ねえ、聞いてるんだけど。」
『分かるはずが…』
「あるよね?」
“ ない ” 。その言葉を言わせてもらえない。
あるって、その一点張りで、拒否権なんて私にない。
華は無事なんだろうか。あいつに、何もされてないだろうか。
私の脳内に不安がよぎる。
「何を、考えてるの。」
『何も、考えてなどいない。』
「黒沢華のこと、とか?」
図星だ。思わず目が点になる。
こいつは、私の何を知ってるのか。華の何を。
“ ひーちゃん!! ”
『やめろ!』
「はは、何を?」
口元に指を当てながら、そう言う。笑いながら、私をじっと見つめるんだ。
ずっとリンクしてた。見知らぬ男の子の残像。今、目の前で流れてる男の子のビデオ。きっと、こいつは私に何か関係があって、このリンクの正体だ。
「ふふ、せいかーい。」
『呑気に楽しんでいるようだが…』
「どれだけ嫌がってもやめないよ?」
“ お前の嘘にはもう、騙されない。 ”
絶句した。嘘。もう騙されない。私が、こいつに何をしたというのか。
ズキズキと頭が痛む。もう、嫌。
「言っただろ。嫌がってもやめない。この痛みは、僕よりも全然優しいはずだ。」
その言葉と同時に強くなる痛み。手足がくくりつけられている以上、痛みを和らげる方法すら見当たらない。
『いっ…』
「痛いか。もっと苦しめ、もっと泣け。お前の苦が僕にとったら蜜だ!」
もがき苦しみ、泣き叫んで、人の不幸を喜ぶ狂ったやつ。
私は気づいたら、頬を涙で濡らしていた。
「あはは!もっと泣け!涙を見せろ、黒木ひなた!」
ひなた。あなたはどこにいるの。助けてよ。
救いにきて。私には、やっぱりあなたが必要。