黒いミント ③
「鳥居小路…?」
「うん。彼がどこにいるか、教えて欲しい。」
「私は、知らないよ…?」
「ゴーストアビリティー、黒沢華。」
なんで、どうして。泉しか、知らないと思っていた。いつ、どこで、それを知ったんだ。
私の中で疑問が重なっていく。
「どうして、それを…」
「もし、翼くんが死んでるなら、会いたい。」
『…っ、それは、無理だ…』
言葉がうまく出ない。声に出すことも、精一杯。
鳥居小路 翼。鳥居小路なんて名字はものすごく珍しい。全国におよそ20人ほどしかいないと言われている。やつはきっと、あいつの息子だ。
「一応、探してみる。」
「うん、一応共通の友達の連絡先、教えとくね。」
“ 共通の友達 ” という見出しに、下の方に書かれていた名前は、嵯峨 一禾、二巳。そして、西園寺 桜雅。
嵯峨家は有名な華道の家元だった気がする。そこに加わる鳥居小路、か。
その隣に書かれていく電話番号。
「ありがとう。」
「よろしくね、華。」
探してくれる協力者が見つかったことで、少しだけ希望を抱き、期待に満ち溢れた凛の顔。
そのまま荷物を持って、華の家から出ていく。
「凛は、どこまで…」
『それは、私も分からない…』
二人して、中身がなくなった抜け殻のように、その場にいた。そこから動けずにそのままずっと。
次の日から華は大学院の方に通うようになった。
通ったところで、鳥居小路 翼の情報は集まらない。
「はーなちゃん!」
「えっ…」
あの日以来の再会。男が苦手なのは、今も変わらずで。おかげさまで凛からもらった電話番号も、かけていない。
「最近見ないなぁって思ってたから、会えてよかった。」
「…うん、そうだね。」
「あれ以来、平気?」
まだしつこくやって来るが、今のところは平気だ。
華は、曖昧な返事を返す。
『相変わらずだな。』
「あの…」
「ん?どしたの?」
私の言葉はなかったかのように、スルーされていく。これが当たり前なのはわかっているが、満面の笑みで華と話しているのが、すごく気に障る。
「鳥居小路 翼さんって、知ってますか…?」
『華、それ以上は…』
「翼? 知ってるよ?」
バカ。一言でそれが浮かんだ。いくら親友を助けるため、とはいえ、何を考えているかわからないやつ。そんなやつらに情報を漏らすなんて。
私は一人、頭を抱えた。
「春翔、何してんの。」
「いや、華ちゃんが相談に来たから。」
『華、行くぞ。』
私の中では黒のオーラで溢れかえっているこの空気。その中で一段と光を放つのは華。
何が危険なのか、見極めるのが難しい。