親としての義務 ⑤
およそ11年前。一気に家族を失った僕は、喪失感に襲われた。
確かに華と二人で暮らす手もあったかもしれない。でも、母親がいない中で、どうしても暮らせるとは思えなかった。
玲も律もいなくなって、華を養えるほどのお金もなくて、おまけに自分自身に自信がなかった。
だから、思わず始めたライターの仕事。初めてすぐに訪れた一つの大事件。
それが、「山田桜ちゃん 殺害事件」だった。
当時生き残った姉の方に話を聞きたいと、みんながみんな血眼で追っていた。
そんな中、
「黒沢さん。」
「あの…、どちら様ですか。」
見知らぬ女性が僕に一枚の紙切れを渡して来た。その紙切れには、全ての真相が事細かく書かれていた。
山田楓ちゃんがどこに住んでいて、今何をしていて、どこの学校に通っているのか。個人情報が全て筒抜けだった。
「この事件、あなたの娘さんの華さんも関わっているそうです。」
「華が…?」
そう言われてはいたが、華がそんなことをするとは信じられなくて。
「あなたは?」
「まだ、知らなくていいかと。」
気づいたらもういなくて、自分の意思で彼女を追いかけていた。
「あの、山田楓さんですか。」
「…違います。」
明らかに本人なのに、彼女はいくらでも嘘をつく。
それを、真実を解き明かすために、ずっと尾行するようになった。まるで、ストーカーみたいに。
「いい記事は書けたのか?」
「…今、山田楓ちゃんの…」
「あー、よく捕まえたな。」
仕事をあまり獲得できなかった僕は、これが最後のチャンスだった。仕事を辞めさせられるか、生き残るか。そんな狭間にいた。
何回も何回も尾行して、楓ちゃんがこの家と自分の家を行き来しているのを知って、後から調べたものの、この家の主は出て来なかった。
それから、僕は再婚することになって、黒沢家に行って、華の居場所を教えてもらった。
それで、今に至るんだ。
『今さら、何を…』
「再婚って、誰と…。」
「鳥居小路 綾芽さん、という方と。華も会ってみないか。」
私の中でぴくっと何かが反応していた。
鳥居小路。私はこの名字を知っている。あまりいない名字なのだから、絶対に私の知っている人であっているはず。
何を考えているんだ。
華の家まで手懐けようとでも?
私が止めないといけない。
「会いたくない…」
「なんで。お前のお母さんとなる人だぞ。」
『華、行くな。』
「私は、会わない…。」
華の少しばかりの反抗。今までなかった分、ここぞとばかりに発揮されてしまった。
止める暇もないくらい悪化して行くこの状況。
「会いに行こう。華。」
「私は会わない!」
「これだから黒沢家は!」