目的 ⑦
「ひなた、何飲む?」
『ホットレモン。』
「わかった。今から作るね。」
レモンの力を借りて、私は頭を使おう。
昔から、私が幼い時から、何かと出てきたホットレモン。毎回手作りで作ってくれるから、温かさが心に染みていく。
…作ってもらった。 一体、ダレニ?
しばらくすると、香って来るレモンの匂い。
「お待たせ、ひなた。」
『…ありがと。』
ホットレモンは冬限定。優しい甘さは、きっと華の作り方が上手いから。
他の誰かが作っても、味はまた変わってくると思う。
『今日は、楓はいないんだな。』
「うん。テストが近いみたいで。」
『騒がしい奴がいないと、こんなにも静かなのか。』
いつもより、静かなんだ。冷たい風とか、そういうのが吹いて来る、ということも一切なくて。
ただただ静か。
「まあ、楓ちゃんはひなたに懐いてるからね。」
異常なほど懐かれるこっちの身にもなってほしい。
“ 鬱陶しい ” 。その言葉が一番似合ってる。
「楓ちゃんも、誰かに甘えたい気分なんじゃない?」
『それじゃあ、ほとんど毎日じゃないか。』
「年中無休だね。」
こんなくだらない話も、久しぶりで。お互い、こんなにゆっくりする時間は取れなかったから。
またどこか新鮮で、楽しい。
「今日は一段と素直なのね。」
『うるさい、黙れ。』
素直。そう思われているのであれば、それでいい。
ならいっそ、このまま聞いてみればいいのかもしれない。
『華。』
「んー?何ー?」
『千葉春翔のこと、どう思ってるんだ?』
好き、とかそういうのが聞きたいんじゃない。お前を守るために、必要なんだ、華。
お前だったら、わかるはずだ。
「千葉くんは、私のこと友達としか思ってないよ。」
『そういうことが聞きたいんじゃなくて!』
「…どこか、闇を感じる。光がないような。」
闇。光を感じない。
私と同意見だな。だって、あいつは…。
「なんで急に?」
『気になっただけ。』
また素っ気なく返すけど、華には知らせないのが得だと思う。伝えたら損。
“ ひーちゃんがやろうとしてることは、全て間違ってる。 ”
その言葉が頭をよぎる。
これを伝えた方が得なのか、それとも損なのか。
「ひなた、ホットレモン冷めるよ?」
『…飲んでる。』
少しずつ口に含みながらも必死で考える。
段々私の頭も限界が近づいてくるものだから、どうすればいいのかわからなくなってる。
私の感情とリンクしているのか、外の天気も段々暗くなってきて。これは雨だ。
あっという間に雲が太陽を隠し始める。
「雨…」
『降り出しそうだな。』
その瞬間感じ取る、何かが来そうな予感。でも、今までみたいに悪い予感ではない。
何が、華に用があるのか。
「何か、来そう?」
『そうだな。誰か来る。』
雨がポツポツからどしゃ降りへと変化していて。
そんなタイミングでチャイムが鳴るから。
『華、出てこい。』
「うん。」
華がそのままドアの方へ走っている背中を見ながら、ほんとに行かせていいのか、戸惑いながら華を追いかけた。
「華。」
それなのに、どうして今お前が来るんだ______。
9月22日。私の運命が決まった瞬間でした。それと同時に、私が家族を一斉に失った日です。
当時10歳の私には、信じがたい現実と戦い続けて、今はもう成人して年をとりました。
毎日毎日、家族がいなくなる恐怖に怯えながら、この仕事と向き合い続けた。
私、このままでいいのか、ものすごく不安。
少しだけ、私の願い事を聞いてください。
“ お母さん。もう一度だけ会いたいです。 ”