目的 ⑤
「ひなた。」
『どうした。』
「お母さんのところ、見に行ってもいい?」
今までこの日が来ても、華からそう言ってくることはなかった。一回も。
どれだけこっちから言ったとしても、「行かない」の一点張り。
今日だけで、華に何があったというのか。
『どうした、急に。』
「今日は、お母さんの命日でしょ?」
『だからと言って…』
「22歳になった、って報告。」
この前の12日で誕生日を迎えた華。あんなに幼かった華も、やっと受け入れて来たのかと思うと、この年月は短かったような、長かったような。
なんとも言えない気分に襲われる。
『…掴まっていろ。』
か弱く、枝のように細いこの腕は、あの11年前の時と同じように、私の手に触れる。
そんなことを考えながら、私はあの家へと飛んだ。
「…懐かしいね。」
『そうだな。』
今でも目を閉じれば浮かんでくるあの風景と、雅の姿。
華が生まれて、誰もが華の存在を欲しがった。生まれ持ったこの能力は、華だけじゃなく黒沢家、黒木家の全てを救うと言われていた。
こいつの、 “ 黒沢華の力 ” があれば、思い通りの世界が、作れるのだから。
「ひなた。あっという間に時は経っていくのね。」
『それだけ華も老けたってことだろ。』
「一言余計なんだけど!」
私が華を守らないといけないんだ。全てから___。