目的 ②
9月22日。華の母である雅がいなくなった日。
世間一体では、この日は命日と言うのだろう。
華が寝ている間に。
私はもう透けて見えない足で、雅がいなくなったあの家へ歩き進めた。
もう、いなくなってからこんなに経つのか、と一人思い出していると、見たことある姿が先客として、いた。
「雅…。」
なんで、今になってお前がいるんだ…。
私にとって、全てが変わった日。全てが、壊された日。
当時10歳の私にとったら酷なことで、家族がバラバラになるという恐怖。
そんなことを今日に限って思い出す。
「あれ、ひなたが…」
いない。どうして。なんで。
私の頭をぐるぐる巡る、あの記憶。
「ひなた!」
家中を探し回っても、ひなたの姿は見当たらない。
絶望に支配された私は、そのまま膝から崩れ落ちて行く。
『…お前、何してるんだ。』
その声に、私は最初気づかなかった。でも、ふわっと香るりんごの匂い。ゆずとも、フローラルとも、ラベンダーとも、全く違う。
そこでやっとわかったひなたの存在。
「ひなた…?」
『何してるんだ。まだ9時なのに。』
「ひなたが…、いなかったから…、」
怖いのよ。また起きたら大切な人が、愛しい人がいなくなってる、なんて。
考えたくもないけど、もし、だなんて。ひなたが一回いなくなってから、怖くてたまらなかった。
信じてたけど。だけど、やっぱり…。
『大丈夫だ。いなくなって悪かった。』
そう言って、私の頬にそっと触れて、温もりを直に感じる。ふわっと感じたひなたの体温と、優しさ。そこで、また改めて分かった。抱きしめられている、と。
『…もう少し、ゆっくり休め。華。』
その言葉を最後に、私の意識は薄れた。