目的 ①
9月。私にとってはある意味トラウマなこの月。私の誕生日もあるけど、お母さんたちがいなくなった月でもある。
私はこの月が、二度と来なくていいと思うほど。
「はーなちゃん。」
「え、」
「あれ、忘れたの?同じ講義受けてる、千葉だよ! 千葉春翔!」
今日に限って、泉も凛もいない。二人して用事があるんですって。
男の人が苦手っていうのもあるけど、なんか、気まずい。
『何してるんだ、華。』
「少しだけお助け願いたい。」
『もう少しで、楓が来るぞ。』
「あの、千葉くん。」
いい案をくれた。
やっぱりこの安心感が好きだな。さすが、ひなた。
「わかった、また明日ね。」
「うん、またね。」
『ほんとに、男が苦手だな。』
苦手なものはしょうがない。苦手なんだから。
ひなたの呆れ顔を横目に、そんなことを思った。
「あの人さ、どこか気になるんだけど、」
『そうか?』
「うん、なんか不思議な感じ。」
『でも、それは私も感じていた。』
いつもの人と話す感じとは違う。それを説明しろ、と言われたら語彙力が無さすぎて、話せないし、説明はできないけど、どこか違う。
直感に過ぎないけど、やっぱり違うんだ。
いつも通りだとしたら、多分私は会ったことない人だと思う。
『華、自分でもわかってるとは思うが、あまり油断するな。』
「わかってるよ。でも、なんか久しぶりね?」
いつもこんなに忙しくはないし、ひなたにこう言われることも珍しいから。
思わずそんなことを口走ってしまう。
「あ、華ちゃん来た。」
「紅葉さん!」
『…華、知り合いなのか。』
どこか怒りを感じた。ひなたの口調が違うことは明らかで。いつも通り、は通用しない。
「今日、依頼しに来たんだけど。」
「わかりました。それでは、家へ。」
『華、やめておけ!』
そんなことも無視して、私は紅葉さんと歩いた。
家に着くと、彼女は、奴は口を開いた。
「あのね、黒木さくらさんに会いたいの。」
「黒木…、さくらさん、ですか?」
『…っ、お前…』
何も考えられなくなった。さくらは私の母で、とっくのとっくに、魂ごと無くなっている。
どれだけ会いたいと願ったところで、もう会えない。
「紅葉さん、私たちゴーストアビリティーにも限界というものがあるんです。」
「会えないの?」
「…はい。」
「…なら、しょうがないわね。」
今すぐにでも泣きそうな表情で、ちらっと私を見た。
『え、』
奴は、私が見えているのか…?
でも、一瞬口元が歪んだ気がした。それは、私の気のせいなんだろうか。
私がそんなことを考えていると、いつの間にか奴の姿は消えていた。
「ひなた?」
『え、』
「紅葉さんなら、帰ったよ。」
いつも通りの笑顔で、優しく言ってくれる。
きっと私の異変に気付いてたのかな、なんて。
でも、どうして奴がここにいるのか、わからない。
「こんにちは。」
「楓ちゃん。」
急に現れては、私の方を見て微笑む。
華とはまた違う、柔らかい匂い。そして、安心する。
今回ほど、難しい問題はないのかもしれない。
そんなことを考える私を照らすように、窓の隙間から太陽の光が覗いていた。