表情の裏 ③
「…で、下見は出来たのか?」
「ええ。黒沢華はいい子よ。一切警戒心がない子。」
『あれ、おかしいな。こっちには警戒しまくりなのに。』
何をしでかすか分からない。でも、奴はもう用無しだ。早く戻って来てもらわないと。
2人一緒に消せないじゃないか。黒木ひなたよ…。
冷たい風が吹いた。どこかで私の噂をしているのだろう。
きっと、いや、もうそろそろで、華の元に帰らなくては。
あいつほどやかましい奴はいないから。
『華さんがずっと眠ってるのって珍しくないですか?』
「何を言ってるの?」
私は何もかも知ってる。この人が、私の情報を集めてることも何もかも。
でもひなたの信頼してる人ならって。我慢してたのに。
「はい、どうぞ。」
ちょうどいいタイミングでジュースを持ってくるから、どこか感謝しつつ、私は彼女に口を開こうとする。
すると…、
「あかねさん。私、華さんと話したいことがあるんです。次の交渉にでも行ってきてください。」
いつも通りの対応。やっぱり冷たい。でも彼女の瞳は、いつもより意思が強かった。
『…わかりました。』
煙のように消えて行った。その姿を見届けると、彼女は静かに正面の椅子に腰かけた。
「話って…?」
「白山あかねについてです。」
「あかねさん?」
情報はある程度持ってるつもりではいる。でも、私が知らない情報があるなら、もらうべき。
私は静かにジュースを置いた。
「あかねさんは、ここの情報を違うところに漏らしています。」
「…うん。」
「きっと、ひなたさんの…」
『話って、そのことですか?』
「あかねさん…」
知らないうちに立っていた。前にもこんなことがあったな、なんて、呑気に考えている私もいる。
でも今、やるべきことは…
「楓ちゃん、もう帰りな。」
「でも…」
「大丈夫だから。また明日。」
私は楓ちゃんの背中を押して、家から追い出していた。
残ったのは私たちと冷たい空気だけ。凍りついたこの空気にいる私は、背筋が凍って、動けなくなる。
『楓ちゃんを帰らせて…』
「話すことがあるなら、話しましょうか。」
冷静に話すのが大事だと思う。どれだけ理解できるか、がこの鍵だと思って。
この人がこれから何を話すのか。何が語られるのか。
私はゆっくり聞こうじゃないの___。
追い出された。家の鍵までも閉められて、立ち入りを禁止された。
私は1人とぼとぼと歩きながら、家の近くの公園に寄り道をする。
今私が出来ることはなんなのか、それしか考えられなくて。
でもいくら考えても出てこないし、考えすぎて頭が痛い。
『これでも飲め。』