表情の裏 ①
1人で思ってしまっていた。ずっとベッドに入ったまま動けずに、「ひなたに会いたいなぁ」なんて。
いつ帰ってくるかもわからないのに。
夜で暗かった空も、いつの間にか明るくなっていて。結局眠れなくて、布団から足を出す。
「まだ、2時間くらいは眠れたはずなのに。」
なんて、ボソッと言うんだ。
水を飲みにリビングまで足を運ぶ。ゴクゴクと喉を鳴らしながら、立っていると思わず浮かんでくる家族の顔。初めてだった。こんなこと。
これがフラッシュバックというもの。
私はその記憶に目を向けた。
・・
「華!」
「なあに!お母さん!」
当時6歳だった私は、俗に言うお母さんっ子。
何を思っていたのか、私はお父さんよりもお母さんの方が好きだった。
お父さんとはまた違う安心感ってやつだと思う。
「またお母さんは華なの?」
「しょうがないじゃない。華はまだ小さいのよ。」
玲とは6歳差。私が小学生に上がったと思えば、彼女は中学生に上がるところだった。
華は小さいから。何回言われたことだろうか。でも、認めるしか道はない。だって、事実だから。
「律だって、思うわよね?」
「私は別に。」
「また2人は華に嫉妬してるのか?」
「嫉妬なんてしてないし。」
私たちは理想の家族だと言われた。どこを取っても私たちは目指す家族と。
でも違うんだ。少しだけ。
『雅。お客さんが来るわよ。』
そう、母がゴーストアビリティーだった。
私は小さい時から幽霊が見えて、声も聞こえていた。
生まれた瞬間から、この力を持っていることも珍しい。
『早く準備をしなさい。』
「待って、もう少しだけ…」
『もう来るんだけど?』
って言いながらも待ってくれるのがお母さんのパートナーである、さくらさん。ひなたのお母さんでもある彼女。
美奈子さんとひなたを足して二で割ったら、こんな感じだと思う。
「さくらさん!もう少しでママ行くから!」
『…っ、わかったわ。早く来てね、雅。』
少し厳しくもしっかりと甘やかしてくれる。飴と鞭の使い方が上手な人。
そんな時に訪れる、一つの事件。
『雅、』
「この人は本気で困ってるのよ?私たちは、それを救ってあげなくてはいけない。」
『でも、この人は…!』
お母さんの元を訪ねたのは、死者だった。
ゴーストアビリティーの規則としては、死者の願いは聞き入れられない。
生者だけ、そう決まっているのに。
「死んでても、生きてても、同じ人間に変わりはないわ。」
『そんなことしたら、私たちは…!』
「そうね、消滅だわ。」
『だったら…っ!』
「一緒に消えましょうか。」
玲が16歳、律が13歳、私が10歳の時だった。
私の元から母が消えたことは、衝撃だった。
「お母さんが消えたって、どういうこと?」
「そういうことよ。」
祖母は嘘をつくタイプじゃない。それは誰もがわかっていること。
でも、誰もわかろうとしなかった。
「だから、次は玲ちゃんだわ。」
「嫌よ、私はあんな仕事につきたくない!」
「でも規則よ。指名されたら…」
ずっと永遠にいなくなる。そんなこと当時の私は知らなかった。
玲と祖母はずっと喧嘩をしていた。
最終的には…
「だったら、消えた方がマシよ!」
『玲ちゃん!そんなこと!』
聞こえなければ見えない玲に、美奈子さんが言っても時すでに遅し。
私が眠っている間に、姉2人はいなくなっていた。
「華ちゃん、私の元へ来なさい。」
『そうね、紫さん。』
私は黒沢家の中で、一番幼いゴーストアビリティーとなった。