生きる価値 ⑧
「翡翠様。」
「どうされた。」
渡された一枚の紙。書かれていたのは “ 白山あかねについて ” 。
ある意味疫病神のやつに、残す居場所なんてない。
「黒木美奈子と接触したようです。」
「黒木…。」
僕の最大の敵、「黒木」。いい度胸してるじゃないか。
僕に永遠に着いて行くと言っときながら、自分は裏切りか。
やはり、僕もそこまで甘くはない。
「こいつ、どうされますか。」
「まあ早まるな、柘榴。」
どうなるかなんて、まだわからない。
わかっていても、教えたりはしないがな。
『翡翠様。』
「あら、噂をすれば。」
「どうされた。」
『黒沢華についてですが…』
やたらと僕と会話をしてこようとする。何を考えているのか、何を思っているのか、僕の前では嘘がつけないだろう。
嘘なんかついたら…って、こいつはもうついているんだ。僕の前で。
「黒沢華に関しては、僕も考えている。お前は持ち場に戻れ。」
『…はい、すみませんでした。』
煙のように、すっと消えて行く。
ゆずの香りだけ残して、僕の前からいなくなる。
「私は、どうしたらよろしいですか。」
「お前は、僕と一緒にいろ。」
「はい…。」
お前の人生は僕が全て握っている。
何をしようと、僕には全部見えてるんだ。
だから、僕に隠し事をしようものなら、何をしようか。姿を消してしまうかも。
だからと言ってはなんだが、お前はもう僕から離れられない______。
およそ3ヶ月前。ある一家を襲った、一つの幸せの崩壊。
夫と娘を残し、旅立った奥さん。
電車で起こった事故でいなくなった彼女は、「夫に会いたい」ただそれだけで、私の元へ。
娘さんがのちに私のもとを訪れ、彼女に会いたいと。
私にとったら、理想の家族の象徴でした。全てが私の理想。いい家族だな、って。
話したいこと、疑問に思ってたこと、ゆっくり聞けましたか。
これが原因で、電車に乗れなかった娘さんも、トラウマを回復できたらいいなと思います。
幸せ。それは人それぞれだし、これで生きる価値が見出せたら。
精一杯生きてください。お母さんの分まで、しっかりと。