生きる価値 ⑤
「あなた、また華ちゃんのもとへ…」
『元気にしてらしたわよ、華ちゃん。』
「なら、いいのだけど…」
もしも何も知らずに、あかねさんとパートナーを組んでいたら、あの子まで罪深き罪人になってしまう。
あの人のもとで動いている以上、罪を追うのはゴーストじゃない。
あなたなのよ、華ちゃん。
「華ちゃんが無事でいられる方法を探しましょうか。」
『それが一番大事ですね。』
一番はあかねさんと離れることなんだけど…。
今離れて危険なのは、華ちゃんなのよね。
私が、私たちが今できることはきっと…。
レモンの香り。新鮮なレモンの香りだから、搾りたてだ、なんて。
呑気に考えてはいるけど、待ち合わせ時間まであと少し。
今のこの時間にできること…。
「レモンパイ、食べますか?」
「うん、お願い。」
「ちなみに紅茶もレモンティーにしてみたんですけど…」
あなたもあと少しで受験が始まるというのに。
「確かに中3ですけど、勉強はある程度やってるので大丈夫です。」
どこからだろう、心の声がとうとう聞けるようになった?とか一人で思ってると、急に目の前の楓ちゃんが笑い出す。
困惑しつつ見つめていると、口を開いた。
「全て…、声に、出てました…っ、」
笑いをこらえながら言ってくるから、どこかまだ幼さが残ってるんだな、なんて思ってみる。
幼少期にあんなことがあれば、トラウマになるのもわかるし、表情が消えるのもわかる。
それが分かっている私は、笑ってくれることにどこか安心感を覚えていた。
『そろそろお時間です。』
まるでメイドみたいに言ってくるから、どこか面倒で。めんどくさいな、なんて思っちゃいけないのに、思ってる。
私と楓ちゃんは準備して、目的地である桜田パレスまで歩いた。
目的地に着いたのは、およそ5分前。既に親子の姿は見えていて。
「遅くなって申し訳ありません。」
「いえ、早く来すぎただけなので。」
少し場所を移動しようと動くと、夏なのにも関わらず冷たい風が吹く。
「時間は夜中の3時までです。」
「はい。」
「覚悟はいいですか。」
甘い香りが漂うこの空気の中に、差し込む月の灯り。
神秘的なこの空間に残される私たちは、ただただその現場を見つめていた。
「それでは、楽しいひと時を。」