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Ghost Ability  作者: 紫乃
Season 2
60/180

生きる価値 ①



『黒沢華とは順調です。』


「そうか、この後は…」




そう。私は彼の言葉だけを信じていくの。それだけで、私が存在する意味がある。




『私は、この後…?』


「そのまま指示を待て。」




私の全てはあなたの物です。翡翠様______。














8月。そこそこ暑く、熱中症に注意しながら生きてる私。

8月になれば、お盆が近づくため、今まで以上にお客は増える。でもそれは、私の精神的死を表すわけで、お盆が過ぎれば、私は死んだように眠る。





「まるで、眠り姫のように。」


「へ、」


「夏休みですね。私は大好きです、華さんに会えるし。」





相変わらずのデレ具合。いつもはツンの要素の方が多めなのに。

夏を目の前にすれば、全てが変わる。それは、こういうことなのだろうか。





「眠り姫になる前に、華さんと思い出作っとこうと思って。」





私には予定が…、という声も今の彼女には届いてすらくれない。

それだけ信頼されている、ということに関しては光栄なことだが。





「お友達と遊ばないで、ここにいていいの?」


「はい。華さんといた方が楽なので。」





本当にいい子だよな、この子。


どれだけ色んな人の感情を目の当たりにしようと、この子は絶対に動じない。

冷静にその現場を見てるんだ。

私の、尊敬すべきところだと思う。





『華さん、今日のお仕事は…』


「まだ、いたんですね。」





まるで嫌味を言うように、楓ちゃんはあかねさんの目を見て、言うんだ。

私は一瞬その現場に驚きを隠せないでいるが、すぐに気を戻して、あかねさんを見る。





『当たり前じゃないですか。パートナーなんで。』





(仮)の。実際のパートナーはあなたじゃなくて、ひなた。あかねさんはひなたの代わり。

私はそう思ってる。





「華さん。」


「来ますね。」





何が来るか、それは私にもわからない。

でも…





『いらっしゃい。』


「こんにちわ…」





お盆時期ならではのお客様。あかねさん曰く、私たちの神様、ですね。





「お茶、どうぞ。」


「…ありがとうございます。」





彼女は着物を着ていた。きっと、“ そういうこと ” だ。





「お名前、お聞きしても?」


「近藤、礼子です。」





楓ちゃんも私も、誰もが息を吸い込み、喉を鳴らした。


近藤礼子さん。およそ3ヶ月前、電車の脱線事故で亡くなった一人。

この事故は、死者63人、意識不明の重体2人を出した、大事故となった。


私は、この人の願いを叶えてはいけない。






「願いは…」


「夫に、会いたいんです。」





旦那さん。事故のインタビューを受けていた気がする。

でも、これは聞き入れちゃいけない。





『華さん。』


「…ごめんなさい。その願いを叶えてあげることは…」


「無理、なんてことはないでしょ!? だって私は…!」


「あなたは、3ヶ月前、亡くなってるんです。」





精一杯の力を込めて伝えたんだ、私は。酷なことを。

たまーにいる。自分が死んだことを受け入れられず、ずっとこっちの世界に彷徨い続け、普通の人間と同じ生活をする。


誰もが同じことを言うんだ。「死んでない」って。





「私は死んでなんか…!」


「じゃあ!その着物はあなたの、ということでよろしいですか?」


「こんな着物、うちにはないわよ!」





死後の世界は、着物が義務付けられている。ただ、最初の一年のみ。

私は、それで見分けていたりする。あとは…





「足が、透けてるんです。」





何も言えなくなった近藤さん。悔しさが全てから溢れていて、一気に滲み出る負のオーラ。





「ごめんなさい…、」




彼女はそう一言、いなくなった。煙のように姿を消して、少し残っているお茶のカップと、娘さんと旦那さんと思われる、3人で写っている写真が残された。





「この写真…」


「楓ちゃん、触れないで。」





私は手袋をはめて、その写真をポリ袋にいれる。


幸せそうに笑う彼女と、恥ずかしそうに目をそらす旦那さん。

きっと娘さんは、彼女似なのね、なんて。


分かりたくもないことを分かってしまう。


会いたいって、望んでるんです。来てあげてくれませんか______。
















母がいなくなったのは突然だった。あまりにも突然すぎて、私は、電車が乗れなくなった。




「大丈夫だよ、優里。お母さんなら…」




一気に父子家庭となったうちは、少しの間何もできなくなった。

急に光をなくすとは、こういうことなんだって実感する。




「優里、今日ご飯何がいい?」


「…なんでもいい。」




母がいなくて、どうすればいいのかもわからなくて、父に当たることしかできなくなった私は、夜通し遊ぶことが増えた。




「優里!」


「もう…、ほっといてよ…」




涙なんてすぐ枯れる。私はどんどん表情を失った。


そんな時に見つけたあるサイト。


“ 亡くなった人との会話をあなたへ ” …?


これだったらもう一回、母と。

私は会いに行くことを決意した。




「お父さん、お母さんに会いに行こう?」



もう少しだけ待ってて。会いに行くから。

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