黒い影 ⑧
「華さん、もう2時55分です!」
「様子見に行こうか。」
彼らがいるはずの場所に向かうと、何名かいて、嫌な予感と冷気が私を襲った。
「寒い…ですね。」
「そう、だね…」
恐る恐る近づいていく。
私はもう何者かなんて、ある程度わかってたけども。
『覗いてたの?趣味悪いね、黒沢華。』
「清水澄良さんは、どこに。」
「この子は僕がもらっていく。」
「待って、その子は…!」
『もう遅いんだよ、黒沢華。』
会ったことのある二人組。私は思わず声を漏らした。
写真。私の頭の中で、その言葉が現れる。
「華さん…」
怯える楓ちゃんと、カオスな状況に巻き込まれていく。
清水さんに何があったと言うのか。
それと同時に、あかねさんはどこへ…?
『またまた、いいショーだっただろう。』
「これは見せ物なんかじゃ…!」
「黒沢華。何か僕に聞きたいことがあるんじゃないのか?」
『翡翠様…?』
翡翠…。
確か深緑の宝石。秦や中南米では、遺体を全て翡翠で覆われていたらしい。
だって、この宝石には、「不老不死」及び「生命の再生」をもたらす力があると信じられてきたから。
私はこのタイミングで何を言って、何を聞けばいいのか。
正直、どうすればいいのかわからない。
「どうした、黒沢華。」
「華さん…?」
一か八かの運試し。あとは私次第。
「ひなたとは、黒木ひなたとはどういう関係なの?」
『翡翠様になんて口を…!』
「大丈夫だ、下がれ。」
私はただ知りたいだけなの。ただ、それだけ。
なんで彼はひなたの名前を知っていて、ひなたの写真を持ってて、ひなたと一緒に写っていたのか。
私の中では謎でしかないの。
こんなことする人と、ひなたが関わりを持つとは思えないから。あのひなたが。
「今のお前に知らせる情報などない。」
私と楓ちゃんの横をすーっと風が吹き抜けた。
誰もいなくなったその場に、私たちは立ち尽くした。
とある事故で最愛なる人を亡くしたら、あなたはどうされますか。
今回、面会を希望された女性は、1人の男性を亡くし、再会を果たしました。
たくさんの話に花を咲かせたでしょう。しかし、彼の一言で、彼女はついて行ってしまった。
私は彼女のために何ができたのでしょうか。
もしかしたら会わせたらダメだったのかもしれません。
私が今、思うことは一つです。
“ 助けられなくて、ごめんなさい。 ”