黒い影 ⑦
『澄良。さあ…』
「私は…」
「さあ、来るが良い、清水澄良。」
「あなたは…。」
『翡翠様…。』
翡翠様、と呼ばれる彼は、政義の横に立っていた。
知らない。いるなんて、分からなかった。
この人は、死んでるの?生きてるの?
それすらも、知らない。
「お前が来れば、舟木政義と永遠に居られる。」
「永遠に…。」
「そう、永遠に。」
洗脳されていく。思うがままに動いて来れない。私の身体は私のもののはずなのに。
まるで操り人形。
『澄良。俺と行こう。翡翠様の元にいれば、幸せになれるんだ。』
「でも…」
「決断は早くするな。ゆーっくりと時間をかけてことこと煮詰めて行こう。」
妖しく笑う彼。じっくり、ことこと煮詰められたら、私はどうなってしまうのだろう。
頭の思考回路を停止して、思うことも忘れていく。
そんな時にふわっと香るラベンダー。
『判断は君だ。いいショーを見せて来れたまえ。』
全身の力が抜けていくのがわかる。
首もまわらない。耳元で喋られているのはわかる。
一つ一つの言葉が、さっきのナイフのような刃物を溶かしていく。
「清水澄良。僕と一緒に舟木政義を殺害した男の子を懲らしめに行こう。復讐、しようじゃないか。」
「復讐…」
気づいたら、私は意識を失っていた。