黒い影 ④
次に目を覚ませば夜。私、今日一日中ずっと眠ってたんじゃないか、と思うほど。
おかげさまで身体の疲れは十分なほど取れている。
「華さん、平気ですか?」
「楓…ちゃん?」
「はい、楓です。」
寝ている間、何が起きていたのか私にはわからない。
でも、あかねさんがいないのは空気的にわかった。
「とりあえず、無事でよかったです。けがはしてませんか。」
「してないよ。」
心配してくれるところも、楓ちゃんの優しさ。
今の私には、優しさ、なんて感情ないから。
「あ、お客様が来てました。」
「お客様…?」
「はい、清水澄良さんという方が…。」
今回手紙をくれた方だ。
「私がお話を聞いておきました。個人情報もこちらに。」
「え、楓ちゃんが?」
その紙切れに目を通すと、こと細かいところまでびっしりと書かれていた。
電車の事故…、子供を助けるために…。
どこかひっかかる。
「あかねさんは、交渉に行ってます。」
「そ、うなんだ…。」
“ あかねさん ” 。その言葉だけで過剰に反応してしまうのは、きっとどこを探しても私だけ。
別に恋してるわけじゃない。だからと言って、気になるわけでも…、あるのか。
『あ、華さん、目覚めたんですね。』
「…はい、おかげさまで。」
『無事交渉は成立です。明日夜9時30分に桜坂駅に集合です。』
「わかりました。」
そっと布団から出ようと起き上がる。足の指先から冷気に触れて、冷やされていく。
『明日は…、体調管理、しっかりしてくださいね。』
冷たい一言。多分、楓ちゃんは気づいてない。
まるで私、いじめられてる女の子じゃない?
まあ、そんなこと思ってる時間はないんだけど。
あっという間に次の日の午後8時。持ち物等々の確認をするわけで。
「忘れ物、ありませんか。」
「ないです。」
あかねさんは、隣でじっとその会話を聞いていた。
あまりにもいつもより冷たい風が流れ込んでくるから、またそれに緊張感がある。
「華さん、いつもより緊張してますか?」
「んー…、してるって言ったらしてる、かも?」
7月。そんな季節で冷たい風が吹いて、寒気を感じるなんて体温がバカになってる。
そんなことを思っていると、あかねさんの口角が上がるの。
私はまた見て見ぬフリをするんだ。
私たちは暑い中、外を歩く。
9時20分。私たちは既に待ち合わせ場所についていた。
外の景色が見えて、綺麗な桜が春には咲き誇る。そんな駅で、私たちは待っていた。彼女を。
「…あの。」
「あ、初めまして。ゴーストアビリティーの黒沢華です。」
「清水、澄良です。」
見た目はボブカットの清楚なお嬢様。そんな感じがする。
でも、話してみれば、彼女にはもう心の闇が。
「本当に、政義に会えるんですか。」
「はい。」
彼女はどこか嬉しそうに、幸せを噛み締めた。
少し場所を移動して、私はあかねさんに合図を送る。
いつも通りの香りで、雰囲気が変わっていく。
「それでは、楽しいひと時を。」