黒い影 ②
7月に入った。あの日から少しずつ寒気を感じつつ、あかねさんの行動にもおかしな点がいくつか上がってきていた。
「はーなー!」
「うわ、どうしたの?」
「今日、家行っていい?」
「別にいいけど、楓ちゃんも来るよ?」
泉と楓ちゃんは似た者同士で、私にしたら居心地がいいったらありゃしない。
『華さん、今日はこの方が…』
相変わらずな関係性。あかねさんといつまで続くのかな、とか考えてしまう。
思っちゃいけないことを思ってるのもわかってる。
わかってるんだけど、止められない。
あかねさんの事務連絡を聞きつつ、私と泉は家まで歩いた。
「あ!やっときた!」
家の前でずっと待ってたらしい女の子。
「楓!」
「あ、泉ちゃん!」
運命の再会を果たす2人を横目に、私は家の鍵を開ける。
「どうぞ。」
「ありがとー!」
『…失礼します。』
私は気付かぬフリをした。あかねさんのちょっとした表情に。
何も起きないでくれ、私はそう願うばかりだ。
・・
その日のお客さんは来なくて。どこか来る予感はしてたのに外したか、とがっかりしていた。
『予想が外れてがっかりでもしてるんですか?』
声がした。私は驚いて後ろを振り向く。
「なんで、」
『なんでって…、私は華さんのパートナーじゃないですか。』
音も立てず、ずっと後ろにいたの。
いつもだったら誰かが来ることに敏感な私が、後ろに立たれていることに気づかないはずがない。
冷たい汗が背中を伝った。
『そんなに仕事、したかったんですか?』
「それは…」
『そろそろ、大学の課題でもやったらどうです?』
笑ってるのに笑ってない。冷酷な瞳。
その中に映ってる私の存在。
怖い怖い怖い怖い。怖いよ、この人。
『怖くないじゃないですか、華さん。』
「…っ、課題、やるんで…、出て行ってもらって、いいですか?」
『わかりました、いつでも呼んでくださいね。』
パタン、と扉が閉まった。
なんで課題をやってないこと、知ってるんだろう。
私は何も言ってなければ、思ってもいない。
…監視でもされてるのかな。
絶対ないようなことを考えてみる。あり得ないのに。