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Ghost Ability  作者: 紫乃
Season 2
51/180

ラベンダーの香り ⑦


彼のまわりに纏わりつく黒い影。

どんどん増えていって、私は消し方を知らない。




『…本当に美しい。』


「え、」




確かにそう言ったんだ。ぼそっと。聞こえるか聞こえないかの声で。

どんどんどんどん増えていく。これは時間がない。

彼を、桔花さんの元に連れていくわけにはいかない。




「…桔花さんとどんなお話を?」


「たくさん話しました。僕も謝ることができたので満足です。」




話をできる限り続けて、意識を保たせないと。

どうか、まだ理性を切らさず、意識を集中させてくれ。



「久しぶりに会った桔花さんは…」


「変わりませんでした。あの日と。」



変わらなかった…? あの日と…?


きっと坂口さんが言ってるのは、桔花さんがお亡くなりになった日のことだと思う。

でも、「変わらなかった」というのはあり得ないんだ。

絶対に服やら、髪やら、変わることはあるはずなのに。


…ああ、もう侵略し始めてるのか。


でも、今ここでこの人を手放すわけには。




「心残りはもうないんですか?」


「はい、すっきりしましたよ。桔花が最後の心残りだったもので。」




“ 桔花が最後の心残り ”


その言葉が私の頭を巡る。その瞬間、あのラベンダーの香りが漂い始める。



「坂口さん、何か好きなお花とかあるんですか。」


「僕は、桔梗とラベンダーですかね。」



ああ、嫌な予感。こういう時ほど当たるのよね。



『私についてきてもいいんだよ、黒沢華。』


「あなたは…、誰なの…、」



ラベンダーの香りが濃さを増す。少しきついくらい、とでもいうところだろう。



「何で、花なんて?」


「少し、気になったもので。」



濃度が強くなったことで、鼻がおかしくなってくる。

隣のゆずの香りもしなくなってくる。全てがラベンダーで染められていく。



「坂口さん。」


「はい?」


「あなたは今から、何をするつもりですか。」



少し気持ち悪くなりつつも、必死で絞り出した質問。

彼はにこりと笑ってこう言った。



「桔花のもとへ。」



その3秒後、彼は自ら命を捨てた。


私は全身の力が抜けて、その場に座り込んでしまった。




『バカですね、あの方は。』


「…そんな簡単に、」


『言ってませんよ?思ったことを言っただけです。』




あかねさん。最初に会った時と全然違う。どうして。


こんなにも一瞬で変わるものなの…?




『黒沢華。』




急に現れては、私の右隣に立つ男性。右からも左からも冷気が流れ込んでくる。




『今のはどうだった。さぞかし、美しかっただろう。』


「人の心を操ったんですか。それは禁止…」


『誰が操ったと言った。いいショーだっただろう。』


「そんなの…!」




美しいものなんて、何もない。人の心は、1人しか操れないし、1人しか見えない。


それを勝手に弄んだ上にショーだなんて。




『気に入ったのか、ならばもっと…』


「気にいるはずがないわ。こんなもの。」


『ほう。こんなもの。まあいいだろう。黒沢華。黒木ひなたと消滅するときも遠くないだろう。』




笑いながら煙のように消えていくから。

私のそばから温かい空気が流れた。






2週間前、双子の妹と喧嘩をし、その日のうちにいなくなった妹。

たった一言が最後の言葉となってしまったことが、心残りだったようだ。そんな彼も、妹の後を追って自ら命を捨てた。

そんなことしても妹は喜ばない。それを知った上で…。


自分の中でやりたいことはやり遂げたのだろうか。

心残り、後悔、全てなくなったのだろうか。


私の中では、それだけが心残りなんです。

自殺してまでやらなきゃいけないこと、あったのかな。

少なくとも私はなかったと思います。



安らかに、お眠りください。

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