ラベンダーの香り ①
華と離れてから、相当の期間が過ぎた。離れたことで何を得られたのか、それは正直わかってない。
でも…、
『何しに、ここまで来たんだ。』
『何しに?お前の目的はなんなんだ。』
『黒沢華を抹殺する、ただそれだけだ。』
華の身に何か起きる。このままあかねに任せて平気なのか、不安がよぎる。
『華には、指一本触れさせない。』
『それは、どうかな?』
ああ、何か起きる。
この私が華を止めなくては。
「華さん!」
「あれ、今日は…」
「これからです。華さんもですか?」
「そう、これから学校。」
ほんのり香るフレグランス。中学生なのに、そんなのつけるんだ、なんてジェネレーションギャップを感じ始める今日この頃。
今日は久しぶりの学校。そろそろインターンも始まる意外と忙しい時期。
「お疲れ様です、あかねさん。」
『お疲れ様です。』
相変わらずのこの2人。ふわふわしてる者と、なんとも言えない者が合わさるとこうなるのか、と思いつつ。
「それじゃ、私はこっちなんで。」
「行ってらっしゃい、楓ちゃん。」
彼女はローファーを鳴らしながら、駆けていく。
今日は素晴らしいほどの快晴。7月に近づいているこの時期は、暑いと感じる程の気温。
『暑い、ですね。』
「やっぱり、思いましたか?」
『はい。』
私はそんな会話をしつつ、ヒールを鳴らした。まるで、先ほどの楓ちゃんみたいに。
ある程度歩けば、大学まではすぐそこ。
「あ、華!」
「おはよ、まだ間に合った?」
「ほんとにギリギリ。泉もさっき来たばっかり。」
泉は一回だけ、私の元に来たことがある。でも、ありがたいことに、泉はこの秘密を黙ってくれている。
「華、アイス食べるー?」
「いいの?」
普通の女子大生みたいなことはあまりできてないけど、十分充実してるから、さらに忙しくなるようなことはしたくない。
『華さん、私少しだけ出て来ますね。』
「わかりました。」
ぼそっと呟きつつ、泉の方を反射的に向いてしまう。
“ 大丈夫だよ ” なんて、口パクで伝えてくるものだから、私はそれに甘えてしまうんだ。
そんな時にふわっと香るラベンダーの匂い。私は嗅いだことのない香り。でも明らかに前の2人ではないことはわかってる。
私はまわりをキョロキョロして、あたりを見回す。すると、頭の中で響く声。
“ 華には指一本触れさせない。 ”
“ それは、どうかな? ”
私の身に、何か起きるの?
そう考え出した途端に、ラベンダーの香りが消えた。
その日の授業は何一つ頭に入ってこなかった。
あの声が頭を巡る。確実に、ひなたの声だった。