幼くして亡くした子の命 ⑥
ガタン。自販機で温かいココアを二つ買う。
「はい、どーぞ。」
「ありがとうございます。」
「あかねさんも何か飲みます?」
『じゃあ、同じので!』
温かいココアをもう一つ買って、プルタブを開けて渡してあげる。
ぬくぬくと温かくなりつつ、こんな暑くなり始めたこの時期に、温かい飲み物を買うことすら、おかしいと思う、
『美味しいですね、甘くて。』
「甘いの、得意なんですか?」
『はい、大好きなんです!』
「私もです。」
「あら偶然。私もですね。」
3人で、見かけたら2人だけども、ココアを一口飲み込む。
まだかまだかと待ちわびていた。
もうそろそろで時間。きっとすぐ来るだろう、なんて思いながら見つめる。
『ひなたちゃんも、こんな感じなんですかね。』
「逆にひなたは何もしないよ、きっと。」
「あり得ますね。ひなたさんですもの。」
なんとなく、いつも通りの会話。
でもみんながみんな、ひなたを覚えてるっていう安心感。
『あ、来ました。』
「よかった、時間ギリギリ。」
「お待たせしました。」
目元が赤い。章汰くん、とやらに会えて嬉しかったんだなって、実感した。
「話したいことは、話せましたか。」
「…正直言って、全ては話せてません。」
今までにない回答。私自身がびっくりしてる。
「でも、元気な姿が見れたので、満足です。」
うっすら涙を浮かべて、笑っている。
この人はきっとまだ話したいことが残ってる。でも、相手は子供だったから、質問責めに出来なかったのか。
ひなただったら、絶対こう言うだろう。
「こいつ、めんどくさい。」と。
『泣きたい、ですよね。』
「私たちの前では、泣いてください。笑わずに。」
私が一言、そう言うと、彼女は足から崩れ落ちた。それに気づいて、すっと楓ちゃんがフォローに入る。
「やっと…、会えたのに…、」
ぼそっと呟いた。
「私が…っ、彼の未来を奪った…!」
私たちは何も言わず彼女を見つめた。楓ちゃんも一言も発さず、彼女の背中をさすり続けた。
人は、誰かに会いたいと思えば、会えると思っている。
しかし、死んだ人と再会を果たし、時間が来てしまえば、その人が亡くなったのは自分のせいだと責める。
自分で自分を追い詰めてしまうのだ。
きっとひなたは、
『だから人間は嫌いなんだ、でしょ?』
「…読んだんですか。」
『生憎、読めてしまうもので。』
私は聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。
「華さん。」
「そろそろ帰りましょうか、可南さん。」
「…はい。」
そっと立ち上がり、可南さんは私の方をじっと見つめる。
「…なんですか。」
「ありがとう、ございました。」
彼女は満面の笑みで笑った。
2年前、都内のある幼稚園を襲った火災事故。
当時その先生だった彼女は、その日ある子供を失った。
今日再会を果たし、何かを得られましたか?
この出来事は損になってませんか?
どうか、このことが役に立っていれば嬉しいです。
もう二度と、あなたと再会しないことを望みます。