幼くして亡くした子の命 ⑤
「ほんとに…」
『あおきせんせ!?』
彼は当時のままだった。いつも元気が良くて、いつも笑ってて。
でも時に元気が良すぎて、怪我をして。そしていたずらっ子で。
『せんせ?どうしたの?』
「ううん…、元気にしてた?」
私は涙をこらえるのに必死だった。
『ぼくね!てつぼうができるようになったの!』
聞けなかった章汰くんの最近の出来事。いつもはそれを聞くのが楽しみで、笑い合ってたはずなのに。
「すごいじゃん!」
『あとね、にじゅうとびができるようになってぇ…』
少なからず、成長してるんだ。できないことができるようになる、子供にとって、それほど嬉しいものはない。
それは、幼稚園の先生だった私が一番知ってること。
「他には?何ができるようになったの?」
『たくさんあったんだけど、わすれちゃった…。』
泣きそうな顔してる。ああ、この子悔しいんだなって。
きっとまだ、これからできるようになることだって、あったはず。
私が、それを奪っちゃったんだ…。
「あのね、章汰、くん…」
『ん?』
「本当にごめんね…、先生があの時、章汰くんを…」
『せんせ?なにいってるの?せんせはなにもわるくないよ。』
そう言って、あの頃と同じ笑顔で笑うんだ。
私はまた、その笑顔に救われる。
『ぼくね、せんせのことすきだから、わらっててほしいんだ。』
“ だから、なかないで。 ”
その一言で私の涙腺は歯止めが効かなくなった。
『そろそろいかなきゃ! せんせ、だいすきだよ!またね!』
「え、章汰くん!」
あっという間に、時間は過ぎ去ってしまうんだ。