会いたい理由 ④
「あの……っ、お金……っ!」
「大丈夫です。」
「でも……っ、」
そう言って、彼女はお財布の中から、千円札を取り出して華の前に差し出した。
「私、お金は取らないってさっき……」
「これと、それは別……です。」
この人、面白い。今の言動でわかる。ていうか、実感した。
「じゃあ…….、ありがたく受け取らせてもらいます。」
華も遠慮がちにそのお金を手に取った。
二人で会話もなくらただただ歩いた。ついた先は、プリンスホテル。
華はここを予約していたのだ。
「中島さん、少しお待ちください。」
「はい。」
私は509号室に向かっていた。もちろんとなりには華も同じ。
二人とも黙っていて、気まずいこの空気。
それを解放してくれたのは、華の方だった。
「なんでプリンスホテルなの。」
『ここは、中島杏子と神谷貴一が初めてデートした場所に近いから。』
「ほんとにそれだけ?」
『……向こうの指示。』
びっくりした。向こうからの指定はパートナーを組んでから初の出来事。
そんな会話をしていると、もう509号室の目の前。私が華にカードキーを渡せば、華は迷いもせずに部屋を開ける。
胸の鼓動が早くなる。リビングに向かうと、スーツを着た男の人。
「…神谷、貴一さんですか。」
『えっ、はい!』
「ゴーストアビリティーの黒沢華と申します。先日は、うちの黒木がお世話になりました。」
誰かの交渉は私の役目。
ちょっと珍しいけど、私の苗字は黒木なの。黒木ひなた。
華とちょっと似てて、いいでしょ?
「では、いきなりですが、外で中島杏子さんがお待ちです。お呼びしてきてよろしいですか?」
『……はい、お願いします。』
返事を聞いて、ロビーにいる彼女を呼びに行く。
会える時間は夜中の三時まで。この月が出ている間だけ。
「杏子さん、お待たせいたしました。」
「華ちゃん……。」
「私はここで待っています。509号室に行かれてください。」
そう言って、華はカードキーを手渡す。
この先は、私も、もちろん華も知らない____。