心の距離 ⑧
「華さん!ひなたさん!」
『こんな時間に出歩いてていいのか、中学生。』
「だって、大事な日でしょ、今日は。」
たださよならするだけの日なのに。邪魔者がいなくなる日を、大事な日なんて。
「ひなたはさ、」
『なんだ。』
「私のこと、どう思ってるの。」
華ことをどう思ってるのか、そんなのわからないに決まってる。
私がどう思ってるか、なんて華の方がわかるはずなのに。
『どうとも思ってない。』
素直じゃないから何とも言えなくて。自分の気持ちもわからない、ほんとのことも口に出さない。
とんだ最低野郎だな、私は。
「ひなた、私はね、ひなたに会えてよかった。」
“ これだけは言えるの!ひーちゃん! ”
『そんなことを口に出すな!!!』
「…っ、ひなた…?」
私の記憶が邪魔をする。うろちょろしてるんだ、隅で。
はっ、と我に返った時には、ビクビクしてる楓と、驚いた様子の華。
『ごめん、』
「…ううん、大丈夫。ひなただもん。」
“ ひーちゃんのこと大好きだよ!ずっとずっと! ”
“ 僕ね、ひーちゃんを越せる存在になりたい! ”
“ 大丈夫だよ、絶対にひーちゃんを泣かせないから! ”
…もうやめてくれ。それ以上、私の元に来るのは。
頭がいたいんだ。…泣きそうなほど。
「ひなたさん…?」
何で泣いてるの。楓のその一言で、私が泣いていることに気がついた。
一筋の線が描かれている私の頰。それを拭ったと思えば、次から次へと大粒の涙が流れる。
『いや、これは…』
一人慌てていれば、華が急に抱きついて来る。
「ひなた。」
“ ひーちゃん! ”
『離れろ!』
華を、突き飛ばしてしまった。
「華さん!」
こんなに心が痛いことなんてあるんだろうか。
って、私に心はないのか。死んでるから。ゴーストだから。
…人間だから。
「…ひなた、急に何なの。」
『…もう、やめてくれ。』
それは少なくとも華に向けてじゃない。楓でもないんだ。
私の邪魔をしないでくれ。私はもう、普通でいたいんだ。
“ ひなたはすごいのね。 ”
“ ひーちゃん、褒められてるよ! ”
“ ひーちゃん!! ”
私のことを知らないくせに、何を言う。
「ひなた、顔青ざめてる。」
『ん…、わかっている…』
頭の中でずっと鳴り止まないにわとりの鳴き声と、「ひーちゃん」と呼ぶ男の子。
もう私を解放してくれ。華のために動きたいんだ。
生きてる奴らを救いたいんだ。
『お願いだから…』
「それは、どうかな。」
「え…」
『誰、なんだ…。』
私は、こんな中、華を置いていく。
・・
2、3ヶ月ほど前。ある学園で起こった事件で、命を絶った一人の少女。そんな少女にこんな決断をさせたのは、親友だった子でした。
少女はそれに気づいていながらも、友達でい続けた。
あなたは偉い。よく我慢したね。
私は、そんなあなたを誇りに思います。
次の世界では、幸せに、あなたの願い通り笑顔でいられる暮らしが待ってますように。
安らかに、お眠り下さい。
そして、ひなた。また会える日まで私は待ってます。
いつか戻ってきて、こうやって一緒に仕事ができるまで。私はずっと黒木ひなたのパートナーでいます。