心の距離 ⑥
「リサ…。」
『久しぶり、栞。』
私の知ってるリサのままだ。いつものように笑って、私の名を呼んでる。
私のことを覚えてくれてることにも、安心している。
『どうしたの?』
「私ね、リサに聞きたいことがあって来たの。」
やっと、やっと聞けるんだ。
「どうして、自殺なんて…」
『どうして、ってどういうこと?』
いつも笑ってるリサの表情は消えていた。
ああ、聞いちゃいけないことを聞いたのかな、って。もしくは、言い方が悪かったのか。
「なんで、あの日…」
『栞が悪いんだよ。』
わたしがわるい…?
リサの言ってることが分からない。頭の上には?がたくさん浮かんでいて。理解力も衰えたのかもしれない。
『栞、知ってた? 私、いじめられてたんだよ。』
…うん、知ってるよ。
でも、言葉には出せなかった。そう言ってるリサの顔が、飛び降りる前のあの、殺意に溢れた顔で。
一瞬で思ってしまった。ああ、殺されるって。
『あの時、栞は私を止めてくれた?』
「私は…」
止めた、とは言い切れない。私は確かに止めよう「とした」。
でも、リサに被されたら、言えなくなってしまった。ただの言い訳に聞こえるかもしれないけど、無理だった。
『実は、本田たちに、飛び降りるフリでいい、栞が止めたら飛ばなくていいよ。でも、もしも止めなかったら落ちてよ、って。ちゃんと体育用のマットは引いとくからって。』
「なんで…」
『でも、信じた私がバカだったの。マットは引かれてなかったし。』
久しぶりに聞いた本田たちの名前。リサがいなくなって、ターゲットが変わったのと同時に、本田自身が学校を自主退学した。
主犯の本田がいなくなったことで、いじめも無くなり、平和な生活が戻って来た。
『私は、栞が言ってくれるって、止めてくれるって、信じてたのに。』
その言葉が、私の胸に刺さる。
でも、私でもそうなると思う。親友だと思ってる子に裏切られたら、同じことを言ってしまう。それで、傷つけるんだ。
「リサ、」
『でもね、栞は悪気はないんだもんね。私知ってる。』
「何を、」
『私が死んでから、私のことを忘れようと必死だったんだよね。お揃いのものも、なにもかも捨てて。リサ、悲しいな?』
「なんで、それ、」
あの当時、リサのことは忘れよう、そう考えることで必死だった。
リサとの思い出も、全て捨ててやろう、って。全部、何もかも。
『あとね、私もう一つ知ってる。』
「もう一つ…?」
『私をいじめてた本田に、私のことをいじめるように頼んだの、栞でしょ?』
…なんだ、知ってたんだ。