心の距離 ③
「そんなことが…」
「私は、もう一度リサに会って確かめたいんです!」
会って確かめたい。それが出来ればいいだろう、でも世の中はそんなに甘くはない。
私はじっと華を見つめた。
『華。』
「わかりました。こちらでも交渉してみます。」
「お願いします。」
栞はそれ以上何も言わず、何も聞かず、その場から去って行った。
『交渉、まだ出来てないのか。』
「だって、ひなたが…」
『私のせいか。』
「別にそうとは……!」
「ストップ!」
その声がする方を見れば、楓が立っていた。しっかりと私の肩に触れ、私と華を離そうとしていた。
『お前、学校は…』
「今日はもう終わりました。」
いつも通り冷静に、淡々と話すから。わたしは口を開けなくなる。
「…で、なんで喧嘩してたんですか。」
「ひなたが、」
『また私のせいにするつもりか。』
「これじゃ話になりませんね。」
15歳の楓にそんなことを言われるとは屈辱だ。って言う私も。……あれ、私って何歳だっけ。
私の記憶を薄れていくんだな、離れると。
「華さん、私も紅茶一つで。」
「わかった。」
華が行ったことを確認すると、楓は私の目をじっと見つめた。
『なんだ、言いたいことがあるなら…』
「言え、でしょ?」
なんだ、楓の瞳の中には、しっかり私が映り込んでるじゃないか。
「ほんとに、いなくなるんですか。」
『別に、お前には関係ない。』
「あります。私は少なくとも、華さんとひなたさんに助けられました。」
『だから…』
「私は、嫌です。」
私が口を開こうとした瞬間、扉が開いた。
楓と私は一斉にそちらを見ると、華が紅茶を持って現れる。
「お待たせ、楓ちゃん。」
「あ、ありがとうございます…」
楓はその紅茶を受け取って、一口飲み込んだ。
私はそれを横目に、華をじっと見つめた。
「…なに、ひなた。」
『別に。交渉しに行ってくる。』
「わかった。」
私はそれだけ言って、姿を消した。
・・
「華さん。」
「ん?」
「ひなたさんのことなんですけど、」
聞きたくない、その名を。今は、今だけは。
彼女のいなくなる今後を想像したくないの。
「彼女は…」
「今は、今だけはひなたの名を出さないで。」
ごめんね、それしか言えないことに気づいた。
言ってしまったことには、責任を持って。
私はもう、冷めきった紅茶を飲みきった。