心の距離 ①
季節は春と夏の中間。見事な梅雨。毎日嫌気がさしてきた頃。
それと同時に最後(仮)のお客さんがそろそろ来る。来て欲しいと思うこともあれば、ひなたと別れたくないがために、来るな、と思ってしまうこともある。
「もうそろそろ、かな。」
今回の依頼人のことは入ってるのか、そう聞くんだ。
いつもみたいに、これが最後と思わないくらい。
「今日の依頼人は、佐々木栞さん。花園学園高等部に通う17歳。会いたい人は彼女の親友である、岡本リサさん。彼女は栞さんと会った翌日の朝、学校の屋上から飛び降り、自殺。栞さんは、その意図を知りたいと。」
いつものこと。私たちは依頼人の情報をお互いに共有して、お互いに彼らのことを知る。
それが、今からやることが、ひなたとの最後なんて。
『上出来じゃないか。』
そうやって褒めてくれるんだ。ここまで必死で集めた情報を、認めてくれてる気がして。
これがあるから、私は喜んで依頼を受けられるのに。
そんな時、チャイムが鳴る。…いつもみたいに。
『華、出ろ。』
「…でも、」
『華。』
私は少し落ち込みながらも外に出る。やっぱり外にいたのは栞で。ああ、来ちゃったって。
ほんとに少しだけ、涙が出そうになる。
「あの…?」
「あ…、こちらへどうぞ。」
『しっかりしろ、華。』
またこうやって厳しくするんだ。私にばっかり。
「お飲み物は、何にされますか。」
「いえ、気になさらず。」
「じゃあ…、本題に入らせていただきます。」
そう言うと、彼女は、一瞬で顔を曇らせた。そして、一瞬で、瞳が潤いを増す。
私は覚悟をして、目の前の紅茶を一口飲み込んだ。