罪 ⑧
「誰にでもいい顔して、そう言うところがむかつく」
『うん』
「お母さんやお父さんを殺したのもお前なんだろ!」
『それは違う!』
自分じゃないことを言われて、否定してはいけない事なんて何かあるんだろうか。
でも、それだけ自分のせいで苦しんでいる人がいると言うことを知ると、罪悪感でいっぱいになる。
「お前はここにいるだけでいろんな人を苦しめているんだ」
『それは…』
「罪を償え、黒木ひなた」
そう言った彼の目元には涙が浮かんでいた。大粒の涙だ。
彼の言葉の中に、たくさん私を苦しめる感情が込められていて。
『…結局はこかげの嫉妬よね。私が何でもできるから、私が全て難なくやって来たから』
びくっと肩を震わせて、私を睨みつけるこかげ。そんなこと、私は一回も思ったことはなかったけど、どうやら図星だったみたい。
それを考えると、こんなことに華や楓まで巻き込んだことに、すごく罪悪感を感じた。それでも守りたい、なんて自己中心的な考えなのだろうか。
『それだけなら私だけに…』
「ひーちゃん。大切なものほど壊したくなるって、聞いたことないの?」
背筋が凍っていくのを感じた。
ああ、だから華が狙われたのか。全て私のせいか。最初から認めておけばよかったのか。
そう思った瞬間にふと顔を上げると、こかげはニコニコしながら私を見つめていた。
その瞳から逃れるように視線を窓に移すと、買い物袋を持った華の姿。
「そろそろ黒沢華も帰宅かな」
『華には手を…!』
「何言ってんの。ひーちゃんも、黒沢華も消えるんだよ」
笑顔でそんなこと言うから。私は覚悟して、玄関の方に向かうこかげの腕をつかんだ。
「離せ」
『行かせない』
もはや兄弟喧嘩なんてものではくくれない。ガタンガタンと色んなものが床に散らばっていく。
全身を壁に打ち付けられ、投げ飛ばされていく。
もう少しだけ、ほんの少しだけ時間を延ばせたら。華に危害なんて行かないのに。
「離せと言っているだろう!」
怒れば怒るほど柑橘の匂いはきつくなっていく。吐きそうになるのを押さえ、こかげの腕をつかむ。
「ねえ、そんなことしても守れないの、分かってる?」
『え…?』
「はは、簡単に腕離しちゃってさ」
冷静になると、ジンジンと全身に痛みが走る。
私はどうしたらいいのだろう。今ここで一体何が出来ると言うのだろう。