罪 ⑦
いつからこんな子になってしまったのだろう。
私は自分で自分を責める。どれだけ時間が経っても、こかげから感じるきつい柑橘の香り。これが続く限り、気持ち悪さがなくなることはない。そんな中でも、使えないこの頭を必死に回転させる。
「本当、いつもそうだよね。言いたいことがあるならばはっきりと言えばいいのに」
そう言って近くのソファーに腰かける。私は少しでも距離を置こうと窓際に向かう。それでも香るこの匂いは止まることを知らない。むしろさっきよりも強くなった気がする。
香りに酔いしれそうになるのを必死に止めて、正気に戻す。
「だから僕に殺されちゃうんだよ」
『何が目的なんだ…』
「目的なんてあるわけないじゃん」
ただ面白いから。こいつはそう言ったんだ。やけに面白い、と言う言葉を強調させて。
私に何の用なのか、何が伝えたいのか。まだ理解は出来ていないけど、きっと何か伝えたいことがあるから私のもとに自分から来たのかな、なんて。自意識過剰なのだろうか。
私は考えながら、じっとこいつの顔を見つめた。
『何か言いたいことがあるんでしょ…』
「聞いてなかったの?」
それを踏まえてだって。どうして伝わらないのだろう。
私の言っていることが何一つ伝わらない。もうこの時点で私はお手上げ状態だった。
『それを踏まえてだよ、こかげ…』
優しく優しく。あの頃みたいに言ってあげるの。5歳児を相手にしているみたいに。
前みたいに笑って、じっと目を見て話すの。
それに気がついたのか、どんどん表情がこわばってくる。
「僕を子供扱いするな!」
『こかげ』
罵声が響いて、窓ガラスにヒビが入る。昔はこんなこと一回もなかったのだから、あの世界に入ってから受け持った力なのだろう。
こっちからしたら邪魔な力でしかないけど。そんなことは言葉にせず、心に閉まった。
「お前に、僕の何が分かるんだ!」
『私は…』
「そう言うところが大嫌いなんだ!」
大嫌い。その言葉がすっ、と胸に染みていく。胸の中で、中から心を刺していくんだ。グサグサと。その胸の痛みで、私はうっすらと涙を浮かべた。
「僕の何が分かるんだよ!」
誰からも天才天才ってちやほやされてきたくせに!
私は天才なんかじゃない。ただの失敗作なのに。
何も口答えできないのが悔しかった。言いたいことはたくさんあるのに、それをうまく言葉に出来ないのだ。ただただこかげの口から紡がれていく言葉に耳を傾け、全て受け止めるだけ。そんな簡単なことなのに、なんでこんなにも辛く感じるのだろう。