罪 ⑥
美しく、羽ばたけなかった鳥のように。
願っても願っても生えなかった翼みたいに。
『用がないなら帰れ』
「あるよ」
こーんなにたくさん!
この一部分を切り取れば、可愛らしく、愛くるしい青年だと思える。でも私は、そんな表情でさえうざったるくてしょうがないんだ。
『何の用だ』
「ゴーストアビリティー、僕にも使わせてよ」
『何を言って…』
「会いたいんだ、黒木ひなたに」
私の胸をグサグサと刺さっていく言葉の矢。また当時の感情と記憶がフラッシュバックし始める。これがやって来ると、私の感情は制御不能になる。
『何のために私と会おうとしてるんだ!』
「何のためって、決まってるじゃん。復讐だよ、復讐」
復讐。私がこいつに何をしたと言うんだ。私の頭の上には?が浮かびだす。
疑問はどんどん表れるわけで。私は頭に残る記憶を遡ったが、その理由は分からなかった。
「はは、分からない顔してる」
『何もしていないじゃないか、私は…』
「これだから自分のことしか考えられないやつは…」
これでもか、と言うほど目を見開いて私を睨みつける。私でも肩をびくっと震わせるほどの目つき。その中でふわっと香る華とは違う柑橘の香り。
『この香り…っ!』
「大嫌いな香りに包まれてどう?」
私を言葉で精神的に追い詰めていく。視覚、嗅覚、聴覚で私を責める。自然と流れる涙なんて、私は気がついていない。
「確か、ひーちゃんが死んだ時もこの香りだったよね」
気持ちが悪くなってしゃがみ込んだ私の付近に来て、上から私を見下ろす。まるで自分がこの世界の支配者とでも言うように。
近くなればなるほど、どんどんきつくなるこの香りに、もっと吐き気がしてくる。
「どーしたの?気持ち悪い?」
『向こうに…!』
「嫌だね」
だって、ひーちゃんが苦しそうにしてる姿って、すっごく魅力的で面白いから。
狂っている。人が苦しそうにしている姿を見て魅力的だの、面白いだの、そんなものを見出すなんて。人として終わっている。