罪 ②
『もうここには…』
「戻らない」
いや、本当は「戻れない」んだ。これから何しに行くのか、何をやるのか、こいつは分かっていて僕に聞いた。
何もお見通し、なんてさすがあいつの息子だ。
「そなたがこれからここを守るんだ」
『急にどうして…』
「急に、ではない。前から考えていたことだ」
前から考えていたこと。
この子は、ここに連れてこられた時から、そういう目をしていた。明らかに他の奴らとは違う。見てすぐにそう感じた。
だからこそ、僕はここから去らないといけない。どこか最後だと思うと、胸がザワザワして。
ああ楽しい。まるであの時みたいに。
『悲しい…ですね』
「何を言っている」
バカなことを言うものだ。
そう思うと自然と口元が緩んだ。僕は、鳳の肩をポン、と叩き、長い廊下をゆっくりと歩いて行った。
これで、本当に終わりなのか。そう考え始めると、どこか心にぽっかりと穴が開いたような、そんな気分が支配する。
「本当に行かれる気ですか」
「ああ」
まだ止める気か。もう決めたことは変えられない。僕に意志は固く、決して変えることはない、決定事項なのだ。
「私はもう少し…」
「何でそこまで僕にこだわる」
その言葉が出た瞬間、びくっと肩を震わせた。
ずっと僕にこだわって何がしたいのか。正直うんざりだった。この状況が、全てが。どれだけ歩いても歩いても続くこの廊下に、どこか苛立ちを覚えながらも、歩き続ける。それしか方法はないから。
逃げるように早歩きをしても、ついてくる。
「どうしてついてくるんだ」
「だって…!」
私はまだ納得がいってないんです。
そんなの僕の知ったことではない。必死で僕をここに引き留めようとしているその姿も、何もかもが僕の脳裏に焼き付く。