ひなたとこかげ ⑧
『…、何を』
思わず目を開けた。夢でも見ていたようだ。昔の昔のこと。私が生きていた時のこと。
そうだ、私屋上から投げ出されて死んだんだ。変な夢を見たせいで、私は頬に一筋の線を描いていた。なんで泣いているんだろう、何で感情移入しているんだろう。全てが謎だ。
そっと涙を拭いていると、声を掛けられる。
『なんで泣いているの、ひーちゃん』
『変な夢を見たせいよ、おばあちゃん』
必死に涙を拭っても、止まらない。滝のように。忘れていた全ての記憶がよみがえってきて、一気に頭が痛くなる。
私を殺したのはこかげで、こかげは私の弟。重要な情報が何なのか、もうわからない。
『ひーちゃん、伝言聴いてくれる?』
『…はい』
『やり残したことはないようにしなさい』
『それはどういう…』
目線を上げるともう祖母の姿はなかった。やり残したこと?後悔するなって?
正直、もう少しヒントが欲しかったところ。よくよく考えると、やり残したことなんてたくさんあるわけで。それを全てやれなんて無理な話だ。
私は静かに近くにあったイスにまた腰かけた。
昔の記憶なんて、もう忘れきっているのかと思っていた。2度と思い出すことなんてないって。
あんな辛い気持ち、思い出したくもなかったのに。なんで私はこんなに泣いているんだろう。
ああ、どうにかしないと。こかげを、ね。