ひなたとこかげ ⑦
「ねえ、ここで何するの?」
「遊ぼう、ひーちゃん」
5歳のこかげとリンクする。遊ぼうッて私の袖を引っ張るの。当時の私の袖はビヨンビヨンに伸びていて。
「何して遊ぶの?」
「ここひーちゃんの好きなところでしょう?」
まるで大きい木から見ているみたいだね。
なんて、無邪気に言ってくるの。憎みたくても憎めなくて。どこか嬉しいなあ、なんて感じている自分もいる。ある意味私の今の感情は迷子なのかもしれない。
「もうちょっと近くで見ようよ」
「え…?」
「行こう!」
「待って、それ以上行ったら落ちるよ、こかげ!」
天然なのか、バカなのか。フェンスのところまで走って行って景色を眺めている。私はその後ろで、その姿を見ているんだ。このまま私は動けない。
「綺麗に見えるよ!ひーちゃんもおいで!」
差し出された手を取って、私は横に並んでしまった。そこからの景色は、樹木から見える景色よりも断然綺麗で。細かいところまでしっかり見えていた。高いビルも、低いマンションやホテルも、歩いている人でさえ。美しい夕焼けがその景色をさらに際立てる。
〈ひなた!〉
〈何してるの!〉
ここから鳥みたいに旅立てたら。綺麗な白の翼が生えて、私を空に飛ばせてくれないか。
〈ひなたちゃんにはまだ早いわ〉
そう思えば思うほど、この言葉がループする。私は何がしたいんだろう。
1人でこの空に問いかけるんだ。答えなんて出ないのに。気がつくとこかげがフェンスの奥に向かっていて。
「こかげ!」
「ひーちゃん…、戻れない…」
私も覚悟して、フェンスを飛び越えこかげと同じ場所に立つ。その場から見える景色は近くて、そして何より高かった。
「こかげ、手!」
こかげがゆっくりと私に手を差し出そうとする。しっかりと手を握って、こっちに引き込もうとした。しかし遅かったんだ、その行動が。
こかげが先に引っ張った手は、空へと投げ出され、私の身体は宙に舞った。
「さよなら、ひーちゃん」
その一言がずっと頭に残る。
ああ、やっと死ねるのか。翼は生えなかったな。なんて呑気に考えていると、次の瞬間身体中に鋭い痛みが襲った。
目元から流れる涙に気づかず、私はそっと目を閉じた。