ひなたとこかげ ⑥
「ひーちゃん」
「ん?」
「放課後になったら、屋上に行こう」
何でとは聞けなかった。疑問に思っているのに、断ることも言葉として出すことも出来なくて、ただ頷いていた。
今日が授業参観の日で、屋上に行くのは当時の規則で禁止されていた。そんなこと、できるはずがないのに。
「じゃあまたね!」
こかげのクラスは三組。そこそこ人数が多かったのか、六組まであった。私は学校に足を踏み入れるのが苦手で、またあの声が頭で繰り返される。
〈なんで100点取れないの〉
〈本当にひなたは何もできないのね〉
〈黒木家跡取りとして恥ずかしくないの〉
〈早く成績を上げなさい〉
私は何が楽しくて生きているんだろう。その謎に入ると当分抜け出せなくなる。
この世界は成績と性別が全て。早く死ねば、楽な世界が。そんなことを思ってしまっている私はもう末期なのだろうか。
そんなことを胸に、私は後ろでこかげの席を見つめる。姿勢よく話を聞いているところを見ると、成長したなあなんて密かに思うんだ。
授業が終わって問題の時間である放課後。
「ひーちゃん、おまたせ」
「屋上で何するの?」
「内緒」
まだ幼い部分は残っているらしい。全てが全て成長しているんじゃなくて、ちゃんとまだ残っていた。そこに安心していて。そこからは早足で階段を上っていた。こかげは楽しそうに私の腕を引き、上がっていく。一体屋上に何があると言うのだろう。
私には分からない。
「はい、ついた」
小学4年生の男の子が、屋上に着いただけでこんなにも大騒ぎできるのだ。正直あざとく感じる。