ひなたとこかげ ③
「ひなた」
「ちゃんと100点よ。何か文句でも?」
まるで女王様みたいに、何もかも上から見下してやった。最初から出来ていれば、怒らなくて済むのに。いつしかそう言われたからだ。100点取って、課題も全て終わらせて突きつけて、その場から逃げるかのように去った。もちろんたどり着く場所は、あの樹木だ。
「ひーちゃん!」
「遊んでたの?」
「うん!」
すると陰から見ていたお手伝いさんがこかげに近づく。
「坊ちゃん、彼女に近づいてはなりません。向こうで遊びましょう」
ああ、そういうこと。こかげからなんてひどい。
この一件で私は家からも、学校からも、みんなから避けられるようになった。
生きている心地がしない。私って本当に生きてるの?
そう疑問に思うほど、みんな無視するから。いっそのこと早く死んで、そのゴーストアビリティーとやらの仕事に就こうかな、なんて。
真面目に考えていた。そう思えば思うほど、その意思が強くなって。
「ひなたちゃん」
どこか優しい声がした。それと同時にどこか聞いたことのある声がして。心に沁み込んで、涙が溢れる。泣く気なんて全くなかったのに、どんどん溢れてくるのだ。なんて不思議なことだろう。
「ひなたちゃんにはまだ早いわ。もう少し生きなさい」
後ろから声がするのに、どうしても振り向けなかった。こんなに涙でぐしゃぐしゃな顔を見られたくなかったから。いや、怖かったから。顔を見るのが。何を言われるのか分からなくて、分からなすぎて。心の覚悟をして後ろを振り向くと、誰もいなかった。
もう少し生きなさい。
私の心に矢のように刺さった。生きたくない、とどれだけ願っても生きなくてはいけない。そう実感したのだ。
こかげが8歳の頃。父と母が心中した。
父が包丁で刺され、母はその横で首を吊っていた。まだ若いこかげを置いて行くなんて。どうして私が。私に苦労を掛けようとしてるの。
そんなことを考えすぎて、怒りに狂った。全て「、そうとしか思えなくて。
「ひーちゃん?」
「しばらく私と二人暮らしだね、こかげ」
「ママとパパは?」
事実は言えなかった。全て嘘でカバーして。しばらく接してこなかったからか、どうやって接して、どうやってこかげと話をすればいいのか分からない。
8歳と20歳。こんなに年が離れている中で、どうやって距離を詰めよう。
日々頭を抱えていた。