ひなたとこかげ ②
「ねえひーちゃん!ボール!」
「…ボール?うん、いいよ」
こかげが羨ましくてしょうがなかった。両親共にこかげのことを可愛がって。ある意味嫉妬してたんだと思う。
ポンポン飛んでいくボールを見ながら、私はそんな自分に嫌気がさしていた。でも、こかげのその笑顔に何回も救われてきた。そんなことを考えていると、縁側から声を掛けられる。
「ひなた!」
ああ、時間切れ。これから地獄の時間が始まる。そう思うと胃が痛んだ。
「もうボールおしまい?」
「うん、ごめんね。ひーちゃんやらないといけないことがあるんだ。だから終わりに出来るかな?」
「うん!」
えらい子ね、なんてこかげの頭を撫でる。私には撫でてくれないの。優しくもしてくれないの。私とこかげの差は何なんだろう。
散々いい点を取りなさい、とかあなたは跡取りなんだから、とか。後から思い知った。これが「女と男」の違いなんだって。
私は唇を噛んで、こかげと母の隣を駆け抜けていった。
「うわ、ひなたどうした?」
「…なんでもない」
涙なんて見せてはいけません。あなたは強くありなさい。
理想をこっちにまで押し付けるな。私の中で全ての限界を超えた。もう止められないし、止まらない。
涙でぐしゃぐしゃのまま、私は家を飛び出した。行く当てもないのに。私はどこに行ったらいいんだろう。よくよく考えれば、私には友達と呼べる人すらいない。
「どうしたら…」
そのまま家に戻るしかなかった。大人しく、何もせず。
「何してるの!」
また怒られるのがオチだよね。私はストレス発散の道具じゃないんだよ。
ちゃんと心もあって、考えだってあるのに。私はどうしたらこかげのように可愛がってもらえるのだろう。考えても考えても答えは出なかった。
「家出て、散歩してきただけよ。それだけで怒られなきゃいけないの?」
「私は心配して…」
「それはご近所さんもいるから?」
わざわざ近所の人を巻き込んでまで言うことかな。そんな母親みたいな顔しないでよ。こういう時にだけ。
この日、私の全てが変わった気がする。性格も、顔だちですらも。