まぶしい光 ⑨
”ひなた ”
”ひーちゃん ”
急に現れた声にびっくりして、思わず手が滑る。
「ひなた!」
『あ…』
気がつくとスカートも含め、私の近くが全体的にびしゃびしゃになっている。白いじゅうたんのここは、綺麗に黄色くしみになっている。
「ひなた、けがしてない?」
『…ああ、ごめん』
近くに散らばったコップの破片をゆっくりと拾い上げていく。バラバラに散ったガラスは、一瞬だけど何かを映した。全然読み取れなかったけど。
「ひなた、そこは危ないから、そっち側行きな?」
ガムテープでガラスをペタペタと集めて、ごみ箱に捨てていく。
あの声が聞こえた瞬間、私の中で何かが弾けて、頭が真っ白になった。もう何も考えられなくて、何をしたいのかも分からない。
私が私じゃなくなっていく、というのはこういうことなんだって、全てが動きを止めたように感じた。
『私…』
「ひなたはひなただから。気にしなくていいよ」
その声が、その言葉が、その瞳が全て私を捉えていた。私の心の中にすっと入って来て、ゆっくりと染みる。どこか心地よくて、安心する。
ああ、この声が、黒沢華が、私の居場所だ、なんて。
『…レモネード』
「うん、作り直すから待ってて」
後始末を終えた華は、また立ち上がる。
こう言うところは母親譲りなんだな、と実感する。
今、この姿を雅さんが見たらどう思うんだろうか。何を感じるんだろう。もし、今私のこの姿を母が見たら、何を思って何を感じるのか、怖くて考えることもしたくない。
…できない子ね、なんて思うのだろうか。
そんな思いは誰にも伝わらないように、心の中に封じ込めた。
「はい、どうぞ」
『ありがと…』
どこにも行き場のない私の思いは、誰にも伝わらなくていい。私だけが知っていればいい。
華も、私が守れればそれでいい。だから、何もありませんように。
これから正直何が起こるか分からない。誰も失わせてはいけない。私が救わないといけない。
そう思うとどこか気が重くて。そんな時に現れたのがあいつだった。
敵ながら思ったことは「お前は、私たちのまぶしいほどの光だ」