名前のない怪物 ⑦
やって来る。よくも引き抜いたな。
また恨み、憎しみが増してしまうじゃないか。
画面に映るからすの姿を見つめて、画面を割った。
「翡翠様?」
「どうされた?」
「それ…」
にこにこ笑った、さっきの顔が浮かんできて、苛立ちが募る。
画面の割れた破片を握りしめていたせいか、手のひらが、ガラスが、血で滲んでいる。
「からすだ」
「了解しました」
きっとそれと同時にあいつも、黒木ひなたも来るだろう。
どうやって言い訳をするのか、楽しみだな。
僕は、自分の席に座って来るのを待った。
「柘榴」
「はい」
「きっと、黒木ひなたもやって来る」
確証は得られない。でも、そんな気がした。そして、あの香りが近づいている。
お前が嫌いなこの柚子の香りに、耐えられるのだろうか。
そう思うと、自然と笑みが溢れた。
カッ、カッ、カッ。
もうそろそろで来る。そう思った瞬間、扉がノックされてこう言うんだ。
『からすです。失礼します』
真紅と冷炭の分もしっかりと。
そう意気込んで扉を開いた。みんなこんな感じだったのかと思うと、どこか息を飲んだ。
「どうされた、からす」
いざ目の前にすると言葉が出てこなくて。あんなに考えていたものも真っ白になって消えていく。
『あ…、の…』
「からす」
“黒木ひなたと、黒沢華と何を話していた?”
肩が震えた。それと同時に、冷たい空気が流れ込む。
どうして、それを知っているのか。全ての思考回路が止まった。