名前のない怪物 ⑥
「お客さん、ですか?」
『え…』
「華さーん!」
ここが、黒沢華の家なのか。
理解力が少し落ちているようだ。肩についている黒い羽毛を一枚ちぎって落とした。
『お前…』
『…助けてください』
思わずそんな言葉が溢れていた。黒沢華ではなく、黒木ひなたを見て。
そんなこと思ってもいないのに。戻りたいわけでもないのに。
『真紅も…、冷炭も…、消えたんです…』
『だからと言って、私の元に来られても…』
困る。それは分かっていた。何を考えているのか、何を話そうとしているのか、もう分からなくなる。
ただ、このままあの地へと戻ってはいけない気がして。
『…天使に戻りたいなら、全てをトップに伝えろ』
そんなことをしたら、消される。
その恐怖が支配する中で、そんな簡単に口には出せない。俺は目を見開いた。
『お前はもうあの世界には戻れない。だが…』
“ここで私たちに愛と平和を配ることは出来る”
思わずまた涙が流れた。
また自分を必要としてくれる人がいる。それだけで肩の荷が降りた気がした。
『ここにいて…、いいのか…?』
『いたくないなら帰れ』
どこか心が満たされた。
そんなこと、今まで誰にも言われたことがない。だから、なおさらなんだろう。
「ひなた?どうやって消されないように…?」
『企業秘密だ。華にはまだ早い』
なんで、こんなに温かいところを壊そうとしてたんだろう。いや、どうして壊してしまったんだろう。
そう思うと、申し訳ない気持ちになる。
『お前は何も心配しなくていい。戻って話をしてこい』
それだけで何か変わる気がする。
全てを変えよう、俺は戻りたいんだ。