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Ghost Ability  作者: 紫乃
Season 5
151/180

名前のない怪物 ⑤


悲しいのに。何で目の前で。

そんなことを考えていると、リリスが目の前にいた。

柔らかい笑顔で、メープルシロップの香りを漂わせて。今から死ぬとは思えないくらい、表情豊かだった。



『リリス!』


『ハニエル』



リリスに矢を向けていたのは、仲のいいサマエルだった。親友と言ってもいいほどのあいつが、愛しい人に矢を向けているのに腹が立った。



『ハニエル、戻れ!』


『なんで…っ!!』



どれだけ暴れても、止める他の天使たち。

それでさらに腹が立つ。涙が溢れて止まらない。



『ハニエル、聞いて』


『え?』


『私ね、あなたのこと本当に…』



言葉を遮るように、矢が放たれた。

射抜かれたリリスの姿を、誰もいなくなったこの会場で抱きしめた。泣きながら。



『なんで、泣いているんだい?』


『私たちの元においでなさい』



頭から降ってきた声に、疑いもせずに手を伸ばしていた。その時の姿は、もう黒に染まっていた。






目を開いた。涙が一筋頬を伝っている。

それに気づくと、もう既に涙の跡も乾いてきていて。どこに行きたいかも分かってないけど、一つの家の前にたどり着いた。

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